ブロンドとフォア・イン・ハンド

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ブロンドは、ブルーネットではないほうの髪の色ですよね。ひと言でもうしますと、金髪。
でも、ブロンドは色の形容として、髪以外にも用いられることがあります。たとえば。

「あぶらののったブロンドの太腿など、ナナの全身は、水沫のように白い薄物の下から、すけて見えたり、あらわに現れていたりしていた。」

エミール・ゾラが、1880年に発表した傑作、『ナナ』の一節。ナナは、舞台女優という設定ですから、当然の描写でもありましょう。
余談ではありますが。「水沫」は「みなわ」と訓みます。もちろん「水の泡」のことです。
ゾラの『ナナ』を、明治三十六年に翻訳したのが、永井荷風。永井荷風の手にかかりますと。

「ナ〃年紀は十八、身の丈高く、飽くまでも肉付好き美人なりきり。されど小き其の口より台詞を唱へ舞の手振する時には………………………」。

ゾラの『ナナ』は、『居酒屋』の続篇でもあるのですが。永井荷風訳を右に置いて読むのも、一興かも知れませんね。
エミール・ゾラについて、こんな話があります。そもそもゾラは口数の少ないお方だったという。1900年頃。ゾラが友人宅で、男三人で話していた。やがて話はイギリス人の悪口に。その時、はじめてゾラが口を開いた。

「ぼくはイギリス人の悪口は言わない。彼らは仁義に厚い人間だからね。」

1896年に、いわゆる「ドレフュス事件」が。1897年に、ゾラは「ドレフュス援護」に筆を採った。当時はドレフュス憎しの論調で、ゾラは英國に去る。
この時、イギリス人はゾラの存在を見て見ぬふりを。そんなことがあったので、ゾラは恩義を感じていたのでしょう。
もう一度、名作『ナナ』に戻ってみましょう。

「四頭の馬を一人の御者で駆るフォア・イン・ハンド、主人は外のベンチに掛け、召使いたちが中に残ってシャンパンの番をしている郵便馬車………………」。

これは競馬場に出かける場面なので、いろんな馬車が出てきます。その中のひとつが、「フォア・イン・ハンド」。
今は「結下げネクタイ」のことでもあります。むかし、英國の上流階級の若者が、あえてフォア・イン・ハンドを競う時。わざと簡略なネクタイを結んだので、その名前が生まれたのです。
好みのタイで、好みのブロンドを探しに行くとしましょうか。

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