ボストンは、アメリカの地名ですよね。アメリカ、ニューイングランドを代表する都市であります。
ボストンはまた、ハーヴァード大学の所在地でも。さらにはジョン・F・ケネディの生誕地にも近い場所です。
そんなこんなで、ボストンはアメリカでもちょっと特別という感じがあります。実際、ボストンを旅してもアメリカにいる印象が薄い。イギリスを歩いている感じなんですね。
そのボストンを背景に、探偵小説を書き続けたのが、パーカー。ロバート・B・パーカー。物語の主人公、スペンサーはボストンの私立探偵という設定になってます。たとえば。
「ボストンの五月の終わりに近いある朝だった。私はコーヒーを飲み終えていた。回転椅子に座って机に両足を上げ、窓を通してバック・ベイを眺めていた。」
ロバート・B・パーカーが、2003年に発表した『真相』の第一行は、このようになっています。
たいていのアメリカ人にとって、この書き出しは、ほんのすこし気障に感じられる。むろん著者もその効果を狙っているのでしょうが。
まあ、ひとつには、パーカーが敬愛するチャンドラーがロスに主軸を置いていたのに、遠慮した部分もあるのかも知れませんが。
ボストンで忘れてならないのは、「ルイス」。「ルイス・ボストン」を標榜したメンズ・ストア。少なくとも1970年代までは、アメリカの名店として輝く存在でありました。
「ルイス・ボストン」の入口に立つと、「一応、靴は脱ぐべきだろうか」と思わせる敷居の高さがあったものです。もっともお値段のほうも敷居に比例していたようですが。
ロバート・B・パーカーも、当然のように、「ルイス・ボストン」を小説の中に登場させています。逆に申しますと、作家が小説に登場させたいほどの名店だったのです。
1830年代、ボストンで活躍した画家に、グッドリッジがいます。サラ・グッドリッジ。つまりは、女性画家。主に肖像画を得意とした人物。また、今となったは謎多き画家でもあります。
一例ですが。サラが、1827年に書いたものに、『ダニエル・ウエブスター』があります。これは、象牙の上に水彩。どうして象牙かというと、サラは細密画をも得意としたからでしょう。ダニエル・ウエブスターはその時代の、政治家だったお方です。
アメリカの作家、アップダイクはその著『アップダイクと私』の中で、サラに詳しく触れています。
「窮屈なボンネットやストックに締めつけられたヴィクトリア時代の謹厳な顔また顔の中に……………………。」
1990年の「メトロポリタン美術館」の肖像画展の様子を、そのように書きはじめています。この中に、1828年作の、サラの『顕れたる美』が含まれていたので。
ストック st ock はもともと、十九世紀の男性用だった、頸に帯状にフィットするネクタイだったものです。最初は、軍人用として生まれています。
ストックの後は、ボタン。初期には、ボウ。つまり、今のボウ・タイとは、前後逆さまだったことにもなります。ボウが前にくるのか、後にくるのかの違い。
まあ、おとなしくボウ・タイを結んで、ボストン再訪と参りたいものですが。