ノワールは、黒のことですよね。英語ならブラックというところ、フランスでは「ノワール」noir になるんだそうですね。
イギリスのファッション用語で、「ヴェストン・ノワール」といえば、黒い上着になります。ことに縞ズボンを組合わせた略礼装のことを。
黒がお好きだった作家に、松本清張がいます。たとえば、推理小説の『黒い樹海』だとか。こんな時に、黒がお好きと言って良いのかどうかはさておき、小説の題に「黒」がお多いのは、間違いありません。
『黒い福音』だとか。『黒の回廊』だとか。『黒い空』だとか。
どうして松本清張に「黒」の題名が多いのか。松本清張は人気作家で、担当編集者は、はやく次のタイトルを知りたい。でも、松本清張のほうでは未だ内容が決まっていない。そこで話の展開に関係なく、謎めいた題名にするには、「黒」が重宝だった。そんなことも理由のひとつかも知れません。
さらには、「黒革の手帖」。これは映画化もされたので、ご存じの方も多いでしょう。
「クラブ・燭台」は銀座の並木通りを土橋近くへ歩く横丁で、このへんに多いバア・ビルの一つにあった。
これが長篇『黒革の手帖』の第一行。銀座の夜の世界が背景になった物語なんですね。
物語の主人公は、原口元子。もと銀行員という設定になっています。原口元子のバアの名前は「カルネ」。なぜなら原口元子の最大の秘密兵器は、黒革の手帖だから。
この原口元子の黒革の手帖には、極秘情報が詰まっていて。
ノワールが出てくる短篇に、『世界の果て』があります。ウラジミール・ナボコフが1940年に発表した物語。
「彼は私最初に描いてみせたブラン・エ・ノワールの見本に喜んでくれて、われわれは残りの絵の主題を決めた。」
また、ナボコフには、同じく短篇の『さっそうとした男』があります。この中に。
「それからノーフォーク・ジャケットを脱ぎ捨て、ライラック色のズボン吊りのボタンをはずし、糊のついたカラーをとった。」
これは「コースチャ」という人物の動作として。
ノーフォーク・ジャケットということは、ニッカーボッカーズであるかも知れません。ニッカーボッカーズにはやはりブレイシーズでしょうね。
どなたか完璧なノーフォーク・ジャケットを仕立てて頂けませんでしょうか。