ランタンと羅紗

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ランタンは、角灯のことですよね。立方体の灯りなので、「角灯」。正しくは「ランターン」lantern でしょうか。
英語の「ランターン」は1250年頃から用いられているとのことですから、古い。
ランタンはもちろんガラス張りで、蠟燭を中に立てておいても、かなり明るいものです。上には吊環がついていて、軒先などに吊るしてもおけるようになっています。
もし色ガラスなどを嵌めておけば、それが家の目印にもなったのでしょう。
ランタンが出てくる話に、『あめりか物語』があります。明治四十年に、永井荷風が書いた紀行文でもあるのですが。

「自分は宿の妻が点して呉れた、小さな提灯を片手に、軽くロザリンの腕を扶けて、かの海辺にと通ずる草道を辿つて行く」

荷風はそのように書いています。荷風は「提灯」と書いて、「ランターン」のルビを添えているのですが。
これはニュウヨークでの夏の想い出として。
荷風は夏の間、スタートン・アイランドに避暑に行っていたとのこと。その別荘の宿からランタンを持って、ロザリンと散歩に。
別荘の主人は、荷風に「ウエブスター大辞典」を示して。「もし英語で分からないことがあったら、これで調べてみてください」。そうも言ったと書いてあります。t当時のアメリカ人は「ウエブスター大辞典」がご自慢でもあったのでしょうか。

ランタンが出てくる小説に『船室の夜』があります。大正五年に、木下杢太郎が発表した物語。

「低い天井に懸つた暗いランタンが胸を壓すやうな鈍い光を投げる。」

これは船が旅での自分の船室での様子として。
また木下杢太郎の『船室の夜』には、こんな文章も出てきます。

「多くの生徒は、地の荒い、黒のメルトンであつたが、その青年と彼と、其他四五の人々のみが、やや其價の高い紺羅紗を着てゐた。」

これは物語の主人公が学生を眺めている場面。
大正五年頃の「羅紗」が高価だったことが窺えるでしょう。羅紗は今のウール地のことです。
どなたか大正時代のウール地でスーツを仕立てて頂けませんでしょうか。

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