グラスとグラヴ

グラスは、コップのことですよね。
たいていはガラスでできているので、「グラス」なのでしょう。
ワイン・グラスというではありませんか。
ワインを口に運ぶには、ワイン・グラスが欠かせません。
ごくふつうにワインを飲むなら、テイスティング・グラスという手もあるかも知れません。
年代物のワインなら、大きくふくらんだグラスが欲しくなってくるものです。
グラスが出てくる小説に、『桑の實』があります。
大正二年に、鈴キ三重吉が発表した物語。

「すまないが戸棚の葡萄酒でももつてきてくださいな。小さい洋盞を二つと。」

これは自宅に客がやって来たので、「おくみ」に頼んでいる場面なんですね。
鈴木三重吉は、「洋盞」と書いて「グラス」のルビを添えています。
明治の終りから大正のはじめにかけてのグラスは、それほど一般的ではなかったのかも知れませんが。

「単に美的な文字は昔の学者が冷評した如く閑文字に帰着する。」

夏目漱石は、鈴木三重吉に宛てて、そんな内容の手紙を送っています。
明治三十九年十月二十六日に。
鈴木三重吉もまた、漱石の門下生でしたから。

「私達の少年の日のこととして、三重吉氏の作品と共に思い出されるのは、三重吉氏が出発してゐた、現代小説の豆本である。」

川端康成は、昭和十一年に書いた随筆『鈴木三重吉』に、そのように出ています。
明治四十五年頃の話でしょうか。
鈴木三重吉は、当時三十歳くらい。大いに小説を書いていた時代なんですね。
グラスが出てくるミステリに、『Xに対する逮捕状』があります。
1938年に、フィリップ・マクドナルドが発表した物語。

「ギャレットは背後に手を伸ばして、テーブルの上のボトルを取り、グラスに荒っぽくブランデーを注ぎ、グラスを上げて飲んだ。」

また、『Xに対する逮捕状』には、こんな描写も出てきます。

「黒い山羊皮製で、手の甲のところに白いステッチと白い真珠色のボタンがついていた。」

これはギャレットが婦人物の手袋を眺めている場面として。
「手袋」は、グラヴglove でしょうか。
どなたか白いステッチのある黒い山羊革のグラヴを作って頂けませんでしょうか。