めしとらくだ

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めしは、食う。ごはんは、頂く。まあ、そんな感じのものでしょうね。
『めし』という小説があります。林芙美子の。原 節子主演で、映画にもなっていますが。もともとは朝日新聞に連載されたものです。
林芙美子、連載は決まったものの、筆が進まない、題が浮かばない。で、ひとり大阪へ。大阪の町を歩いて、歩いて。ふっと眼に入ったのが、長い提灯。長い提灯にこれまた長い字で、「めし」とだけ書いてある。林芙美子、「これだ!」
すぐに東京に帰って、朝日新聞に。
「題が決まりました。「めし」です。」
でも、編集部がうんと言わない。で、林芙美子、編集局長に直訴。その時代の局長は、信夫韓一郎。
「めし、明快じゃないですか。」
これで、決まり。『めし』の連載がはじまると、好評、好評、また好評。ところが1951年6月28日。林芙美子、死去。
『めし』の後は、永井龍男に。林芙美子の書きためは、四日分。四日後には、とりあえずの一編が、必要。永井龍男、四日で書けようはずもない。ただひたすらに、お断り申し上げる。で、最後に、信夫編集局長の前に。
「永井さん、新聞小説が白になるんですよ。」
このひと言で、後も先も考えずに、首を縦に。こうしてはじまったのが、『風ふたたび』だったという。永井龍男が『風ふたたび』の次に書いたのが、『外燈』。この中に。

「先に立つ千鶴子の、キャメルの毛と、香料のまじり合った匂いが、ほのかに流れる。」

「キャメル」 camel はらくだの毛。正しくは「キャメルズ・ヘア」。昔は上等のコートによく使われた生地なのですが。

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