モンブランは美味しいものですね。まず第一に、姿が美しい。モンブランの頂に雪が彩られて。まあ、だからこそ「モンブラン」という名前になったんでしょうが。
モンブランは栗をふんだんに使ってのケーキで、栗の名産地にはモンブランが似合うのでしょう。
モンブランがお好きだったお方に、堀田善衛がいます。堀田善衛はパリの「アンジェリーナ」のモンブランを絶賛しています。もっとも「アンジェリーナ」はモンブランで有名な店でもあるのですが。
「アンジェリーナ」は二十世紀のはじめからリボリ通りにあって、シャネルもしばしば足を運んだという。「アンジェリーナ」はほんとうはカフェよりも「サロン・ド・テ」というのに近い店なんでしょうね。
堀田善衛は「アンジェリーナ」のモンブランを食べて、「長生殿」を想う。堀田善衛の随筆『金沢風物誌』に書いています。ざっとこんな風に。
「長生殿」を味わったことがあるから、「アンジェリーナ」のモンブランの味が解る。
「長生殿」は、落雁。金沢の「森八」の銘菓。落雁から楽らくとモンブランへ飛ぶ発想は、詩人の感性でしょう。
堀田善衛はゴヤに惹かれて、惹かれて。戦後、日本にゴヤの魔力を伝えたのは、堀田善衛だったと思います。堀田善衛を識ることがなければ、ゴヤを識ることもなかった。堀田善衛におけるアンジェリーナと森八の関係に似ているかも知れませんが。
堀田善衛はゴヤに魅せられたために。一時期、スペインに移住もしています。堀田善衛のスペインでの暮らしは、『日記』に詳しく出ています。たとえば。
「小生は誤って室内ばきのズック靴のままで来たので、メッシュの靴を一足買う。」
これは1978年6月8日 ( 木曜日) の日記。場所は、マドリッド。これを読んだかぎり、マドリッドに行ったなら、たぶんメッシュの靴を買いたいと思うことでしょうね。