ステッキとトレンチ

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ステッキは正しく歩くための杖ですよね。「転ばぬ先の杖」なんてことも言うではありませんか。
ステッキの話が出てくるのに、『気まぐれ日記』があります。『気まぐれ日記』は、内田魯庵の作。大正十五年五月十五日から書きはじめられているのですが。その年の六月四日の日記に。

「或る蝙蝠傘屋が来て、ステッキのカタログの序文を書いて呉れという。」

ただしその店の名前は示されてはいない。でも、私は勝手に「タカゲン」だろうと、見当をつけています。大正十五年に、「タカゲン」はステッキのカタログを作ろうとしたのでしょう。
「タカゲン」は、今も銀座にある銘店。創業は、明治十五年一月十二日。高橋源蔵がはじめたので、後に「タカゲン」。
高橋源蔵は、もともと刀剣を扱っていた。そこに明治の、廃刀令。で、高橋源蔵は仕込み杖を作ることに。お侍は刀をやめて、みんな仕込み杖を持ったんですね。
そのうち仕込み杖も廃れて、ステッキに。ステッキから、洋傘へと。そして今、ふたたびステッキの時代へと。
そうそう、日記の話。三島由紀夫もまた、日記を書いています。その題が、『裸体と衣裳』。いかにも三島由紀夫らしい凝った題名になっています。『裸体と衣裳』は、昭和三十三年二月十七日(月)』 から、書きはじめられています。そして同じ年の十月二十日(月) のところには。

「夕刻銀座テイラーで黒のトレンチ・コートの仮縫。さらに、前から欲しかったジョン・クーパーの生地の三つ揃いを注文する。」

「銀座テイラー」は今もある銘店。「ジョン・クーパー」はフランネルで有名なウール・マーチャント。
さて。トレンチ・コートにステッキで。銀ぶらと参りましょうか。

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