シャーベットとシャンタン

シャーベットは、氷菓のことですよね。
アイスクリームの親戚。アイスクリームに似ていて、アイスクリームではありません。
アイスクリームを食べるのか、シャーベットを食べるのか。これも好みの問題なのでしょう。
フランス語なら、「ソルベ」sorbet 。イタリアなら、「ジェラート」gerlato
。ではジェラートはアイスクリームなのか、シャーベットなのか。それとも「グラニテ」granite と遣いわけるべきなのか。
あんまり考えてばかりいますと、溶けてしまいます。シャーベットはまず先に食べてから。
昭和十一年にシャーベットを召し上がったお方に、古川ロッパがいます。

「名物食堂の四階レストランデンツーの招待日で、ポタアジュにブフアラモオド、冷鶏とシャーベット。うまかった。」

昭和十一年八月十七日、月曜日の『古川ロッパ昭和日記』に、そのように出ています。
その前の日に古川ロッパは、アイスクリームを。

「トマトのポタアジュ、ブフアラモオド式の煮込みに、メロンを食ひ、プディングを食ひ、アイスクリームを ー かなり満腹である。やはり高いものは、うまい。」

そんなふうに書いてあります。これは当時あったレストラン「ニューグランド」での昼食として。

「フジアイスに寄り、岡田嘉子に偶然逢つた。近々に遊ばうと約束する。」

同じ年の八月七日、金曜日の『日記』の記録。
「フジアイス」はその頃銀座にあったハイカラな洋食屋のこと。

徳田秋聲が昭和十一年に発表した長篇に、『仮装人物』があります。この中に。

「白と桃色のシヤベツトを食べて、何円か取られて驚いた覚えのある初期のライオンを思ひ出した。」

これは「庸三」の印象として。
「ライオン」はその頃銀座四丁目角にあったカフェのこと。
徳田秋聲が昭和九年に書いた短篇『霧』を読んでおりますと。

「この人は、桃色のシヤベツトやソオダ水などが、初めて銀座で売り出された頃の、」

そんな一節が出てきます。ここから想像するに、シャーベットは昭和のはじめに日本にお目見えしたのでしょうか。それも銀座のライオンがはやかったのかも知れませんね。

シャーベットが出てくる小説に、『帝国の動向』があります。メキシコの作家、フェルディナント・デル・パソが、1987年に発表した物語。これは歴史小説。1860年代と、1927年とを行ったり来たりする構成になっているのですが。
マキシミリアン皇帝と、その妃、シャルロッとが語る内容になっています。

「両シチリア国王だった私の曾祖父が招待客にシャーベットを振る舞っていたカゼルダ王宮、」

これはシャルロットの語りとして。この会話には続きがありまして。

「カゼルダ王宮のカーテン用に、山東省の絹を欲しがったというし、」

「山東省の絹」が、「シャンタン」shantung であるのは言うまでもないでしょう。
本来のシャンタンは、山繭の糸織った絹地。そのために表面に不規則な節糸が表れる生地。稀な絹であったものです。
どなたか桃色のシャンタンでスーツを仕立てて頂けませんでしょうか。