チョコレートは、美味しいものですよね。チョコレートはたいてい箱に入っています。薄紙に包まれて、静かに睡っています。チョコレートの箱を開いて、一個だけ食べようと思う。
チョコレートをひとつだけ、食べる。食べると、もうひとつだけ。もうひとつだけ……………。気がつくといつのまにか、すべてのチョコレートが消えてしまっているのですね。まことに、不思議なことであります。
ゴディバ・チョコレートについて、こんな伝説があります。ゴディバ Godiva はベルギー、ブラッセルの、高級チョコレート。1929年、ジョセフ・ドラップスによってはじめられています。
ジョセフ・ドラップスはいたく「レディー・ゴディバ」の物語に感銘していたので、「ゴディバ」の名前にしたのです。「レディー・ゴディバ」が、十一世紀、英國、コヴェントリーのゴディバ夫人に因んでいること、言うまでもありません。市民の税金を安くするために、真夜中、裸身で馬を走らせたあのレディー・ゴディバの話。
ジョセフ・ドラップスは旅する時、必ずゴディバのチョコレートを携えた。飛行機のファースト・クラスに乗ると、隣の人に、「おひとつ、どうぞ………」。
1960年代のこと。ジョセフ・ドラップスはいつものように飛行機に乗って、「おひとつどうぞ…………」。と、隣の客は、「ああ、よく知っていますよ。うちの家内が大好物でしてね…………」。そしてさらにつけ加えて。「もし、よろしければ、ウォールドルフ・アストリアの私の部屋にいらっしゃいませんか。」
ジョセフ・ドラップスは、ウォールドルフ・アストリアに行った。客人は「おいくらですか?」と尋ねる。ゴディバの会社ごと、買いたいと。ジョセフはごく常識的な金額を告げた。と、客人はその二倍の金額を小切手に書いたという。
客人の名前は、ベヴ・マーフィー。大手食品会社、「キャンベル」の会長だったのです。
チョコレートが出てくるミステリに、『作家の妻の死』があります。英国の、ロバート・バーナードが、1979年に書いた物語。
「それからクッキーもね。でもあのチョコレートでくるんであるのはいけませんからね。」
これは、マダム・ヴァイオラの科白。たぶん、チョコレート・ケーキなのでしょうが。マダム・ヴァイオラはこう言って、スポンジ・ケーキを食べるのですが。また、『作家の妻の死』には、こんな描写も。
「淡いブルーのスラックスにピンクと白のチェックのシャツとスニーカーといういでたちだが……………」。
これはアメリカの、文学研究家、ドワイト・クロンワイザーの着こなし。それを英国人の、グレッグが眺めている場面。
チェックのシャツ一枚でも、英米での違いがあるのでしょう。
ピンクと白のチェックのシャツで、ゴディバのチョコレートを買いに行くといたしましょうか。