ブリテンはもちろん、英国のことですよね。むかしは、「ブリタニア」とも言ったらしい。そこでブリタニアを短くして、「ブリテン」となったんだそうです。
1815年にブリテンを訪れたアメリカ人に、アーヴィングがいます。ワシントン・アーヴィング。ワシントン・アーヴィングは生粋のアメリカなんですが。
1815年5月25日にニューヨーク港を船で発って、イギリスに向かっています。では、どうしてアーヴィングはイギリスに向かったのか。これはひとつには、兄弟に会うためでもあったようです。
ワシントンのお兄さん、ピーターがリヴァプールに住んでいたので。ピーターに会った後、バーミンガムに行って、お姉さんぼ、セーラにも会っています。
それから倫敦に出て、少なくとも数年間は倫敦に住んでいます。その倫敦での様子は、『スケッチ・ブック』に詳しく出ています。ワシントン・アーヴィングは、倫敦では「リトル・ブリテン」という地区に住んだ。そこに家具付きの部屋があって、そこを借りたという。その家具のひとつに椅子があって。
「私は色褪せたブロケード織りの生地が張られた背の高い三、四の猫足の付いた椅子を特段の敬意を払って眺めた。」
そんな風に書いています。故き佳き時代の栄華を伝えるものである、と。
話は変わりますが。ミステリの世界で、ブリテンの宝と言いたい人物に、ジョン・ル・カレがいます。ジョン・ル・カレもまた、生粋のイギリス人。本名は、デイヴィッド・ジョン・ムーア・コーンウェル。オックスフォードを出て、イートンで先生をしていたのですから、英国人の中の英国人でありましょう。ミステリといえばその通りなのですが、実に質の高い物語を書き続けた作家であります。
そのジョン・ル・カレが、1989年に発表したのが、『ロシア・ハウス』。この中に。
「ブラディはブリーフケースをあけた。人がまだいい物をつくることを知っていた時代の、まさしく値打ち物だった。」
「ブラディ」は、CIA の調査員という設定。
「人がまだいい物をつくることを知っていた時代」。まあ、そんな時代もあったということなのでしょう。
ただ、このジョン・ル・カレの眼は、ワシントン・アーヴィングの眼と同じものであったと思うのですが。