チャンスとチャップス

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チャンスには前髪しかない、なんてよく言いますね。でも、私なんぞ、どれが前髪なのか、どれが後髪なのか、それさえ分からなくて、おろおろしているのですが。
チャンスが出てくる小説に、『忘却の河』があります。福永武彦が、昭和三十九年に発表した物語。

「彼女もまた庭を眺めながら、もし訊くとしたなら今がそのチャンスだと感じていた。」

「彼女」は、藤代という女性。彼女は前の日にギョウザを食べています。作者、福永武彦は「ギョウザ」と書いているので。
ギョウザの脇に欲しいものは、ビールでしょうか。ビールの中でも「オリオン・ビール」がお好きなお方に、池澤夏樹が。少なくとも池澤夏樹は、沖縄、名護の「オリオン・ビール」の取材に出向いています。

「喉をすっと通って、うまい。誰でもこちらにいる間はこれを飲むことになる。ブランド名は「オリオンビール」。」

池澤夏樹著『神々の食』には、そのように出ています。
池澤夏樹と、福永武彦。おふたりがビールについて、またギョウザについて語り合うチャンスがあったのかどうかは、存じませんが。いうまでもなく、福永武彦のご子息が、池澤夏樹なのですから。
チャンスが出てくるミステリに、『アメリカ銃の謎』があります。エラリー・クイーンが、1933年に発表した物語。

「きみが、うまくチャンスの前髪をひっつかんで……………………。」

これはチャンピオンを目指している男への助言としての科白。『アメリカ銃の謎』には、こんな描写も。

「皮ズボンに、ソンブレロス姿のカウボーイたち。」

どうして、ここにカウボーイが出てくるのか。『アメリカ銃の謎』の背景は、ロデオ。ロデオなので、「皮ズボン」なのです。いわゆる、「チャップス」。
下のズボンを守るための、オーヴァー・パンツ。スペイン語では、「チャパレラ」。このチャパレラがアメリカに渡って、「チャパレオス」。チャパレオスを短くして、「チャップ」となったものです。
当分、今のところ、チャップを穿くチャンスはありませんがね。

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