鹿は、可愛い動物ですよね。「仔鹿のバンビ」っていうではありませんか。
鹿はまたファッションとも無縁ではなくて。たとえば、「デイアストーカー」。あのシャーロック・ホームズ帽のことです。
そもそもは、ハンティングの従者がかぶったというので、その名前があります。その時代には、一種のヘルメットでもあったのでしょう。
それから、ドスキン。ドスキンは、生地の名前。ほんとうは、「ドゥ・スキン」。雌鹿の革に似せた布地のことだったのです。
鹿は、涙を流して泣く、との言い伝えがあります。
うめくたびにまだらな皮の衣は張りつめて
裂けるかと思われ、丸い大粒の涙は両の目からこぼれて
罪のない鼻面を伝い、次々に前の滴を追うのも
あわれを誘います。
シェイクスピア作の『お気に召すまま』に一節にも、このように出てきます。でも、ほんとうは鹿の習性からの、油脂の一種なんだそうですが。まあ、涙としておいたほうが夢がありますよね。
夢といってよいのかどうか。アメリカの作家、ノーマン・メイラーについて。ノーマン・メイラーは、1939年、16歳で、ハーヴァード大学に入学。飛行機の勉強をしたいと。でも、実際にハーヴァード大学に入ってみると、飛行機よりも面白いものに出会って。小説。ノーマン・メイラーは、それまで文学にまったく興味がなかった。しかし、スタインベックの『怒りのぶどう』を読んで。約60日間というもの、繰り返し、繰り返し、『怒りのぶどう』を。それで、作家に。まさか、それほど簡単でなかったでしょうが。同じ本を、何度も何度も、呆れるほど読んだのは、ほんとうなんでしょう。
1955年。ノーマン・メイラーが発表した問題小説が、『鹿の園』。これはハリウッドの裏側を描いた小説。必ずしも上品なだけの物語ではありませんが。
鹿が出てくる随筆に、『シュワルツワルドの旅日記』があります。1923年に、池谷信三郎が書いた紀行文。
「村の外れに「鹿」の宿がある。」
「鹿」の脇には、「シルシ」とルビがふってあります。ドイツ語では鹿のことを、「シルシ」と呼ぶのでしょう。また、『シュワルツワルドの旅日記』には、こんな描写も。
「運動着の上へ眞白なジャケツを着て、わらはゞこれでも、もう十一年スキーをやってゐますわなどとお優かな啖呵を切る。」
これは、スキー場であった貴婦人の様子。
冬に、真っ白の上着。悪くないですよね。
なにか白いジャケットで、鹿見物に参りましょうか。