ホテルとホック

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ホテルは、快適なところですよね。ホテルは、人と待ち合わせができる。美味しい珈琲が飲める。食事ができる。もちろん、泊まることも。ベッド・メイキングまでしてくれるのですから。
一時期、帝国ホテルに住んでいたのが、オペラ歌手の藤原義江。同じく帝国ホテルに事務所を持っていたのが、岩谷時子。たぶん「日生劇場にも便利だったからでしょう。
岩谷時子が、越路吹雪のマネージャーだったのは、よく知られている通り。もう、時効でしょうが、マネージャー料はすべて無料だったという。
越路吹雪の趣味は、買物。有名品を買って買って買って。そこで、ある時、岩谷時子は越路吹雪にクレジットカードを与えた。越路吹雪のひと言。

「このカード、便利ねえ。」

越路吹雪はカードの代金が岩谷時子の口座から引き落とされていることを、ついに知らなかったそうですね。
その越路吹雪が、1954年2月6日。羽田からブラジルへ。映画祭があったので。映画祭の後、リオのホテルに泊まって、休養。
越路吹雪が、リオの海岸で、海を眺めていると。若いフランスの俳優が、話かけてきて。
「明日の朝はやく、二人で珈琲を飲もうよ。」
この経緯を越路は、岩谷に話した。
「朝、珈琲飲もうと思ったら、彼、いないのよ」。フランス人のいう「夜明けの珈琲」は、もっと別の意味だったらしいのですが。
越路からこの話を聞いた岩谷に、ひとつの詩が。それが形になったのが、『恋の季節』。

🎵 夜明けのコーヒー 二人で飲もうと
あの人が言った 恋の季節よ

これを、今 陽子が歌って、拍手喝采。この今 陽子のヒットを知って、越路は岩谷に言った。

「時子さんは、恋泥棒。私の恋から、歌を作るんだから」

越路吹雪、岩谷時子 共著『夢の中に君がいる』に出ている話なんですが。
越路吹雪はドレス狂でもあって。舞台衣裳はすべて、自前。中には、ホックつきのドレスもあったでしょう。
「ホック」は、日本語。正しくは、「フック&アイ」。このフックは訛って、「ホック」に。
昔の洒落者は、「後ホックのドレスを着る女に手を出すな」といったそうですね。ドレスを着るとき、誰かホックを留めてくれる親しい人がいるでしょうから、と。

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