献上という言葉がありますよね。もちろん、差し上げるを丁寧にいうときの表現なのでしょう。
そして、「献上」もまたおしゃれ用語のひとつなんですね。博多献上を略して、「献上」。つまりは、博多織のひとつ。博多織で仕上げたものに、「博多帯」があるわけです。
男物の博多帯には、多く紺色があった。そこで、「紺献上」とも。この紺献上をさらに省略して、「紺献」とも言ったものです。いうまでもなく、江戸言葉。
博多織がどうして「献上」かというと、江戸時代に博多藩が保護したから。博多藩から徳川将軍への献上品に、博多織が。毎年の三月に、博多帯十筋を献上。それで、「博多献上」として有名になったものです。
今でも、落語などによく「紺献」は出てきます。
当時、博多献上を織る家は、十二戸のみと厳しく限定されていたそうです。
紺献上が出てくる小説に、『寝園』があります。横光利一が、昭和七年n発表した物語。
「少し派手かとも思へる紺獻上の一本独鈷で…………………。」
これは、「梶」という男の帯。梶は、凝り症で。
「足袋はわざわざ結城の手縫ひで然も共切の色紙をあてたものでなくては……………………。」
いつの時代にもとびきりの洒落者はいたんでしょうね。
『寝園』には、また、こんな描写も出てきます。
「横に悠悠と構へてゐるピークト・ラペルの高の肩さきが目につくと………………………」。
「高」と呼ばれ男の着こなし。小説にあらわれた「ピークト・ラペル」としては、比較的はやい例かと思われます。
時には、紺献を寄せ集めて、上着を作りたいものです。襟はもちろん、ピークト・ラペルで。