おロシアとオイルド・コオト

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おロシアは、今のロシアのことですね。幕末の頃には、「おロシア」。ロシアの敬語をつけたんでしょうか。
たとえば、島崎藤村の『夜明け前』にも。

「半藏は誰に聞いて來たんですか、オロシアの船だと言ふ。」

島崎藤村は『夜明け前』の中で、「オロシア」と書いているのですが。とにかく物語が、嘉永六年頃のことですから、おロシアが出てくるのも、不思議ではありません。嘉永六年は、西暦の1854年のことです。ちょうど「黒船」がやって来た頃のことであります。
その時代、人びとはどんなものを食べていたのか。『夜明け前』にもその例が出ています。

「酒のさかな。胡瓜もみにあお紫蘇。枝豆。到来物の畳みいわし。それに茄子の新漬。飯の時にとろろ汁。すべてお玉の手料理で、金兵衛は吉左衛門を招いた。」

ざっと百五十年ほど前の話ですが、それにしてはあまり変ってはいないようですが。もちろん、その一方で、大いに変っているところもあって。「あとり」。今、あとりは口に登らないでしょう。

「國巡る あとりかまけり 行き廻り…………………。」

『萬葉集』にもそのように出ています。「あとり」も「かまけり」も小鳥の名前。
あとりは寒い時期が好きな小鳥。雀より少し大きいくらいの小鳥。つぐみにも似ています。
藤村の『夜明け前』に、あとりをたらふく食べる話が。嘉永二年にあとりが獲れて獲れて。もちろん、霞網にかかる。今、霞網は使いません。が、嘉永二年には霞網を。
あとりが獲れに獲れたので、金兵衛と吉左衛門とが食べくらべをするんですね。三十羽も食べたという。おそらく今日の焼鳥のようにして召しあがったのでしょうね。
ロシアが出てくるミステリに、『殺人者の顔をした男』があります。2002に、マッティ・ロンカが発表した物語。著者はフィンランドの作家。フィンランドはロシアに近く、ロシアが出てくるのも当時でしょう。

「あんたの親父が賢い人で、ロシア人として立派な人民になるべく頑張ったのか……………………。」

これは物語の探偵、カルッパの科白。また、『殺人者の顔をした男』には、こんな描写も。

「緑色のオイルドコートは、海の風にさらされたことなど一度もなさそうに見える。」

これは探偵の、ヴィクトル・カルッパの事務所にやって来た依頼人、アールネ・ラーションの姿。アールネ・ラーションは、古書店の主人という設定。
「海の風にさらされたこと」がないのも当たり前でしょう。ここは素直に、「オイルド・コオト」で、ギャバジンかなにかの生地にオイル・コーティングが施されているものなのでしょう。もしかして裏には毛皮が張ってあったりして。
今のおロシアに行くなら、毛皮裏のオイルド・コオトはふさわしいものかも知れませんね。

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