ゴヤは、スペインの画家ですよね。1799年ころに描かれた『裸のマハ』はよく知られているところでしょう。そして、『着衣のマハ』があることも。
「マハ」は固有名詞のようでもありますが。実は、「流行女」の意味。時代の先端を行く女を指す言葉だったという。
ゴヤは、1746年3月30日に、フェンデトードス村に生まれています。お父さんのホセ・ゴヤは、鍍金師だったと伝えられています。鍍金は、金鍍金のこと。おそらく手先の器用さは、父譲りだったのでしょう。
お父さんのホセの血筋を辿ってゆくと、バスク人であったろうと、考えられています。
ゴヤは、1828年4月26日に、天寿を全うしています。八十二歳でした。1828年ころのヨオロッパの平均年齢は、だいたい三十八歳くらいだった。ここから考えると、ゴヤはたいへんな長寿だったことになります。
しかもゴヤは、死の直前まで、絵筆を放すことがなかったのです。たとえば、1827年ころにも、『ボルドーのミルク売り娘』を完成させています。今は、「プラド美術館」に収められている名画。八十一歳という年齢を感じさせない筆さばきになっています。
ゴヤは、『ボルドーのミルク売り娘』を友人の、ムギーロに与えています。その時、ゴヤはムギーロに言った。
「この絵は、金一オンス以下の値段で手放してはいけないよ。」
『ボルドーのミルク売り娘』は、ゴヤ最晩年の傑作とされているのですが、やはりゴヤなりの自信作でもあったのでしょう。
ゴヤを愛し、崇拝した作家に、堀田善衞がいます。堀田善衞著『ゴヤ』の中に。
「金糸銀糸による縁どりのついたマホ風の、きわめて立派な短胴衣を着ている。そして胸には、レースのコルバータ…………………。」
若き日のゴヤの姿を、そのように書いています。ここでの「マホ」は、マハに対する男性形。時代の先端男のことです。
スペイン語の「コルバータ」 c orb at a は、ネクタイのこと。直接にはイタリア語の「コルヴァータ」 c orv att a から来ています。つまりはフランスで言う「クラヴァット」のこと。
なにか好みのクラヴァットを結んで、ゴヤの画集を探しに行くとしましょうか。