アタランタは、女の人の名前ですね。ギリシア神話に登場する美女の名前。
アタランタはたしかに美しい女なのですが、かてて加えて足が早い。
「彼女の場合、足の速さか、美しさか、そのどちらがまさっているのかは、にわかに決めがたかったでしょう。」
オウィディウス著『変身物語』には、そのように出ています。オウィディウスは、紀元前43年3月20日に、アペニン山脈も、スルモオという村に生まれた詩人であります。
この『変身物語』によりますと。アタランタのもとには求婚者が列をなした。もちろん、若く、逞しく青年たちが。そこでアタランタは若者たちに宣言した。
「私と競争して、勝った者と結婚しよう」
アタランタは青年を先出発させて、自分は後から武装して走る。アタランタはしばらくの後に青年を追い抜くと、弓で射たという。命がけの求婚だったわけですね。
何人もの求婚者が消えたあと、ヒッポメネスという美青年があらわれて、求婚。
例によって例によって、命をかけた競争が。ヒッポメネスの足も、決してアタランタに劣ってはいない。抜きつ抜かれつ。しかし、ゴールはまだ遠い。
その競争の途中、ヒッポメネスはアタランタにむかってりんごを投げる。アタランタは一瞬、りんごを拾うかどうか、迷う。でも、結局は投げられたりんごを拾って、喉を潤す。
そして、競争はヒッポメネスの勝ち。約束どおり、アタランタはヒッポメネスと、結婚。メデタシ、メデタシ。
でも、どうしてアタランタはりんごを拾ったのか。たぶん、ヒッポメネスに負けることがあってもいいかな。そんな気持がよぎったからなのでしょう。
アタランタが出てくる戯曲に、『リュイ・ブラース』があります。1838年に、ヴィクトル・ユゴーが発表した演劇。
「貴殿はきのう、アタランタのバレエ見物においでになりませんでしたな。」
これはドン・サリュストが、ダルブ伯爵に対しての科白。
おそらくは当時、アタランタを題材にしてのバレエがあったものと思われます。また、『リュイ・ブラース』には、こんな描写も出てきます。
「君、マントの襟のホックを掛けなおしてくれないか。」
これは、ドン・セザールが、従僕に対しての科白。この時代にも、マントの襟元をホックで留めることがあったのでしょう。
ホックはフランス語なら、「アグラフ」agr af e 。もちろん、「カギホック」のことです。
アグラフのある服を着て、現代のアタランタを探しに行くとしましょうか。