コンパクトとコロン

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コンパクトは、化粧道具のひとつですよね。
女には必ず必要で、男には絶対必要ではないものの代表選手でありましょう。
女にとってのコンパクトは便利なもので。蓋を開くと裏が鏡になっていて。化粧直しに好都合であります。
また、会話の途中で女がコンパクトを開くのは、「ちょっと退屈かも………lのサインでもありましょう。
第一、女が男の前でコンパクトを開けるのは、「男」とも思っていないのかも知れず。なにかと「便利」な小道具であります。
英語では、「パウダー・ケイス」とか、「パウダー・ボックス」の名前でも呼ばれるんだとか。
コンパクトはハンドバッグの流行と関係があって。ハンドバッグに入れて持ち運ぶに便利な小道具だったのでしょうね。
だいたい1890年代から、ハンドバッグやコンパクトが一般に用いられることになったようです。

「近頃それが流行るのはいいが、人中でも何でも構はずそれを開けて見ては顔を直すんだから、それぢやちつとも奥床しさといふものがない。」

谷崎潤一郎が、昭和四年に発表した『蓼喰ふ虫』の一節に、そのような会話が出てきます。
このすぐ前の科白に、。

「これ? これはコムパクトといふもんよ。」

と、あります。おそらく日本の小説に描かれた「コンパクト」としては、かなり早く例かと思われます。
これは「美佐子」と、「老人」との会話に於いて。
勝手な言い分ではありますが。昭和四年は、谷崎潤一郎の美学が最高発揮された年ではないでしょうか。谷崎美学の最高峰に『蓼喰ふ虫』が位置しているように思われます。
たとえば「老人」はどんなふうに酒を飲むのか。

「老人は近頃「酒は塗り物に限る」と云ひ出して、その杯も朱塗に東海道五十三次の蒔繪のある三つ組のうちの一つであつた。」

まあ、何事も凝りはじめるとキリがないんでしょうね。
『蓼喰ふ虫』の主人公は、「美佐子」の亭主、「要」。要もまた洒落者で。

「和服の時は寒中でもシャツを着けないのを身だしなみの一つにしている彼は、長襦袢の裏と皮膚とのあはひに清涼な風の孕むのを覺へながら……………………。」

また、『蓼喰ふ虫』には、こんな描写も出てきます。

「………彼の味覺と嗅覺とをよろこばすためにペディキュールをした足の甲へそつと香水を振つておくだけの……………………。」

なにしろ、昭和四年のことですからね。
まあ、素足でサンダルには、コロンを足に。それも佳いかも知れませんね。
昔、長沢 節先生はサンダルにはコロンと決めていたようですね。もしかすれば、谷崎の
『蓼喰ふ虫』に目を通していたのでしょうか。
どなたかサンダル用のコロンを考えて頂けませんでしょうか。

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