志賀直哉は、日本の文豪ですよね。代表作は、『暗夜行路』でしょうか。『小僧の神様』でしょうか。
志賀直哉が昭和二十九年に発表した小説に、『いたづら』があります。これは昭和三十三年に映画化もされているそうです。主演は高橋貞二と、有馬稲子で。
この『いたづら』を読んでおりますと、こんな一節が出てきます。
「私は紅茶好きで、學校から帰ると、先づ二三杯飲んでからでないと、仕事に取かかれぬ習慣になつてゐた。」
「仕事」とは、翻訳。モオパッサンの日本語訳。ただしモオパッサンの英語訳をさらに日本語にするのが、仕事だと説明されています。
また、翻訳料についても。四百字詰の原稿用紙一枚につき、十五銭だったという。それは当時の一般常識としても、けっして高くはない金額だったらしいのですが。
ところで志賀直哉の『いたづら』には、「野尻抱影君に」の添書があります。どうしてここに、野尻抱影が出てくるのか。
「………これはわたしの甲府時代の思い出話に興を感じて書かれたからである。」
野尻抱影著『山・星・雲』には、そのように書いています。
ある時、野尻抱影は、志賀直哉の前で昔話を。それを志賀直哉は覚えていて。「野尻抱影君へ」といつも書いたんだそうです。
野尻抱影は、大佛次郎のお兄さん。星の研究家でもありました。その一方で、十八世紀、英国の怪盗にも詳しかった人物なのです。
「………当時の風俗どおり、三角帽子の下に仮髪をつけ、裾のひどく張った長上衣にプラシテンのズボン、木のかかとで銀のビジョー留めの靴という身なりである。」
野尻抱影著『ろんどん怪盗伝』に、そのように書いてあります。
これはその頃有名だった、ジャック・シェパードの着こなしについて。十八世紀の紳士靴には、シルヴァー・バックルの靴が多くあったものです。
どなたかシルヴァー・バックルの靴を作って頂けませんでしょうか。