トタンは、亜鉛板のことですよね。昔は屋根などに、亜鉛板は張ったりしたものであります。
トタンは、ポルトガル語の「トゥタンガ」tutanga から出ているとの説もあるようですが。ほんとうのところはまだよく分かっていないんだそうですね。
「翌朝宗助が眼を覚ますと、亜鉛張の庇の上で寒い音がした。」
夏目漱石の『門』に、そのような一節が出てきます。漱石は、「亜鉛張」と書いて「とたんばり」のルビを添えています。漱石の頭のなかでは、「亜鉛」と「トタン」は、ほぼ同義語だったのでしょう。
「橋の上から見ると、川は亜鉛板のやうに、白く日を反射して、時々、通りすぎる川蒸気がその上に眩しい横波の鍍金をかけてゐる。」
芥川龍之介が昭和三年に発表した短篇『ひよつとこ』に、そんな描写が出てきます。これは吾妻橋の上から隅田川の舟遊びを眺めている場面なんですね。
芥川龍之介もまた、「亜鉛板」と「トタン板」との共通点を想っていたでしょう。
トタンが出てくる短篇に、『雨』があります。英国の作家、サマセット・モオムが、1911年に発表した物語。
「………ただトタン屋根を打つ小止みない雨の音だけが耳に立った。」
モオムは一般に「短篇の名手」だと言われています。が、その中でも『雨』は名作だと言えるでしょう。少なくともモオムの代表作のひとつであります。
『雨』には、こんな描写も出てきます。
「海軍軍人で、鼻の下には、歯ブラシのような白い髭を生やしている。汚点一つない白綾織の軍服を着ていた。」
これは南海の島の総督の着こなしとして。おそらく「トゥイル」、twillの一種なのでしょう。
どなたか純白のトゥイルでスーツを仕立てて頂けませんでしょうか。