ブーランジェとブロードリイ

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ブーランジェはフランスのパン屋のことですよね。イギリスなら、ベイカリーでしょうか。
フランスのブーランジェは昔の日本の豆腐屋と似ているところがあります。朝が早い点で。
パンも豆腐も仕込みに時間のかかる食べ物です。仮に朝七時に店を開けるとしても、暗いうちから仕事をはじめなくてはなりません。
朝いちばんに焼きたてのパンが食べたい。朝起きてすぐ、豆腐の味噌汁が飲みたい。そんな客がいる限り、パン屋も豆腐屋も朝寝坊はしていられません。
今の日本で、朝早くから豆腐屋に走る人は少ないでしょう。でも、パリでは、一日の最初の散歩がパン屋までというお方は珍しくありません。
熱いカフェオーレに焼きたてのパンは願ってもないことですからね。
第一、好みのパン屋が決まっていて。たとえば、Aのパン屋のパン・オ・レザンは7時に焼き上がる。そんなことを識っているのですから。
パン屋。ブーランジェ。これをBoulanger
と書きますと、人の名前にもなります。「パン屋さん」というわけですね。日本でも「米谷」という姓があるのと似ているのでしょうか。
フランスの歴史の中で探しますと、「ブーランジェ将軍」があります。
ジョルジュ・エルネスト=ジャン=マリイ・ブーランジェは、1837年に、レンヌに生まれています。ブーランジェは根っからの軍人志望で、1854年には、将校に任命されています。その後、ブーランジェは数多くの戦で手柄を立てているのです。気っ風が良くて、ハンサム。これで人気の出ないはずがありません。

「宴会は嘗て見ない豪奢なものだった。料理も酒も将校たちを充分に驚かした。」

大佛次郎の小説『ブゥランジェ将軍の悲劇』には、そのように出ています。
ブーランジェ将軍は部下にご馳走するのがお好きだったようですね。そんなこともあってか、いつの間ににか、支持者が殖えていったという。
これらの支持者を、「ブーランジスト」と言ったほどに。また、ブーランジェの考えに賛成することを、「ブーランジスム」などとも。

ブーランジスムが出てくる日記に、『ジッドの日記』があります。もちろん、フランスの作家、アンドレ・ジッドが遺した日記なのですが。

「フランスにおいてかのブーランジスムを失敗させたものはなんだったろうか?」

ジッドは、1933年4月5日の『日記』にそのように書いています。

また、1931年9月13日(日曜日)の『日記』に、こんな描写も出てきます。

「この軍旗には一方にL・Eの頭文字、他方にL・Nの頭文字の刺繍があり………」

これはジッドが外人部隊の旗を眺めている場面として。
軍旗は結構ですが、小さな刺繍を散らした柄の上着を仕立てて頂けませんでしょうか。
刺繍。フランスなら、「ブロードリイ」broderie でしょうか。

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