スプーンとスェーター

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スプーンは、西洋匙のことですよね。スプーンはスープなどを食べる時には便利なものでしょう。グレープフルーツにも専用のスプーンがありますよね。
「匙」という字のなかには「ヒ」の文字が含まれています。この場合の「ヒ」は貝の意味なんだそうです。大昔には、貝殻を匙の代わりに使うことがあったのでしょうか。
日本人がはじめてスプーンを使ったのは、いつなのか。ひとつの候補は、万延元年でしょうか。西暦の1860年のこと。今からざっと百六十年ほど前のことでしょうか。
この年徳川幕府はアメリカに遣米使節を出していますから。その時の記録が、玉虫左太夫の『航米日録』なのです。アメリカまでは、船。船での食事も詳しく述べられています。

「フヲーク・ナイフ・スブウンヲ人数ニ応じて卓上ニ並べ………」

そんなふうに出ています。玉虫左太夫は「スブウン」と書いていますが、おそらくはスプーンのことかと思われます。
アメリカ行きですから当然、ニュウヨークにも。ニュウヨークではシャンパンを飲んだりもしています。ただし、「シヤハン」と書いているのですが。
ニュウヨークでは道路に水を撒いての清掃をも見ています。

「フユルヒヤに同じ。」

「フユルヒヤ」。さあ、これが分からない。しばらく考えて、納得。フィラデルフィアのことなんですね。道路に水を撒いて掃除するのはフィラデルフィアでも、見たよ。そんな意味なのでしょう。
玉虫左太夫の『航米日録』を読むのは、頭の体操になるのかも知れませんね。

スプーンが出てくる小説に、『落葉日記』があります。昭和十一年に、岸田國士が発表した物語。

「常子夫人は、味噌汁の中へパンをちぎつては入れ入れして、スプンを器用に口へ運んだ。」

岸田國士は、「スプン」と書いているのですが。
また、『落葉日記』には、こんな描写も出てきます。

「彼女は薄萠黄の毛絲のスエータアに純白のスカート、それに同じ白のベレエを阿弥陀にかぶつて、いそいそと寄宿の門を出た。」

これは「梨枝子」の様子。
「萌葱」は、イエロイッシュ・グリーンのこと。
どなたか萌葱のスェーターを編んで頂けませんでしょうか。

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