カルヴァドスは、りんご酒のことですよね。これだけでは少し説明不足でしょう。
りんごを原料に酒を造ると、シードルになります。このシックを蒸溜すると、カルヴァドスになるわけですね。
シードルは主にクレエプを食べる時に飲んだりすることがあるでしょう。クレエプもシードルももともとは、北フランスにはじまっているから。北フランス、ことに、ノルマンディーで。
ノルマンディーは葡萄栽培の北限を越えていて、でもりんごは元気に育ってくれる。そこでシードルやカルヴァドスが多く造られたのです。
「カルヴァドス」Carvados
はもともとノルマンディーの村の名前。このカルヴァドス村を中心にシードルが蒸溜されたので、「カルヴァドス」と呼ばれるようになったものです。
カルヴァドスは蒸溜酒ですから、強い。アルコール度数、だいたい42度前後。ウイスキイやブランデーと
同じくらい。食前酒にしたり食後酒にしたり。
第二次大戦中のフランスではずいぶんカルヴァドスを飲むのが流行ったそうです。たぶん最初はノルマンディーの地酒を都会で飲む印象があったのでしょうが。また、ひとつにはウイスキイなどの外国製品は輸入が難しいことも関係していたのかも知れません。
カルヴァドスが出てくる小説に、『招かれた女』があります。1943年に、フランスの作家、シモーヌ・ド・ボーヴォワールが発表した物語。1943年がまさしく第二次大戦中だったのは言うまでもありません。
「あわててカルヴァドスをぐっとあけて、こそこそ逃げだしましたわ。」
これはフランソワーズの科白として。あるダンスホールで、船員に誘われたフランソワーズの反応なんですね。少なくとも当時のダンスホールで、フランソワーズがカルヴァドスを飲んでいたことが窺えるでしょう。
また『招かれた女』には、こんな場面も出てきます。
「わたしマールを飲むわ。暖まるのよ。」
これもまた、フランソワーズの言葉。とあるカフェでのこと。カフェの暖房が充分ではなかったのでしょう。マールはカルヴァドスと似て非なる飲物。原料は、ぶどう。ただし、ワインを絞った後のカスが原料となります。
当然、有名なワインの絞りカスを使ったマールが美味しいとされるのですが。マールにはマールの愛好家がいたりするものです。ただしワイン・メイカーでマールを造ることは禁止されているのですが。マールにはマールの専門会社があるのですね。
それはともかく、『招かれた女』を読んでおりますと、フランスの酒の勉強になります。フランスの冬は長くて寒い。暖房がなくてはとても過ごせません。でも、第二次大戦中は薪や石炭にも不自由することがあったらしくて。マールやカルヴァドスは飲む暖房でもあったのでしょう。
「ポールは白い毛のガンドーラのようなものを着て、目のつんだ面を持っている。」
『招かれた女』には、そんな描写も出てきます。ここでの「ポール」は、女優という設定になっているのですが。
「ガンドゥーラ」gandoure は、アラビアの民族衣裳。軽く羽織る上着のことです。
どなたかガンドゥーラを仕立てて頂けませんでしょうか。