ステーキとスポーラン

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ステーキは、ビーフステーキことですよね。ビーフステーキを短くして、ステーキ。昔はもっと短くして、「テキ」とも呼ぶこともあったそうですが。
牛肉を塊のままに焼くと、ローストビーフ。生で細かく刻んで食べると、タルタルステーキ。ステーキにもいろんな種類があります。
ステーキの焼き方にも人それぞれの好みがあるようです。レアがお好みのお方もいらっしゃいます。そうかと思えば、熱い鉄板の上を素通りしたくらいの焼き加減が美味しいとおっしゃるお方もいらしゃるでしょう。

「オイ姉さん。オムレツで酒だ。後はビフテキといふ注文だよ」。

明治十八年に、坪内逍遥が発表した小説『当世書生気質』に、そんな一節が出てきます。これは牛肉屋の二階で書生が食事をする場面。明治十年代には、「ビフテキ
」の言い方があったのでしょう。
『或る阿呆の一生』にもステーキが出てきます。芥川龍之介が、昭和二年に発表した箴言。

「一人前三十銭のビイフ・ステエクの上にもかすかに匂つてゐる阿蘭陀芹を」

芥川龍之介は、「ビイフ・ステエク」と書いているのですが。また「阿蘭陀芹」は、今のパセリのこと。芥川龍之介はステーキにパセリを添えるのがお好きだったのでしょうか。
それはともかく、大正末期には、ステーキが「三十銭
」くらいだったことが分かりますね。今なら、3、000円相当でしょうか。
とにかく芥川龍之介は、匂いに敏感だったものと思われます。
昭和十二年にステーキを召しあがったお方に、古川ロッパがいます。

「食堂ヘ赴き、ハムエッグス、ビフテキ、ライスカレー。」

『古川ロッパ昭和日記』にそのように書いてあります。昭和十二年六月三日、木曜日のところに。これは東京駅から関西に向う食堂車の中でのこと。
ハムエッグスに、ステーキ、ライスカレー。うーん。健啖家ですねえ。
古川ロッパは東京駅から列車に乗る前に、銀座でカンカン帽を買っています。銀座でカンカン帽。もしかしたら当時銀座にあった「大徳」だったのかも知れませんが。
では、なぜ、古川ロッパはこの時、カンカン帽を買ったのか。
菊田一夫作のラジオ・ドラマ『カンカン帽物語』に出演するために。また、関西行きは、菊田一夫も一緒だったみたいですね。
六月五日の土曜日には、宝塚の小林一三の自宅を訪ねて挨拶もしています。古川ロッパは、宝塚では「川万」という宿に泊ったとも書いてあります。

ステーキが出てくる小説に、『本めぐる輪舞の果に』があります。1987年に、英国の作家、アイリス・マードックが発表した長篇。

「ステーキとキドニーパイ、カレーとポテトは熱いものを出すはずだったし、トライフルはまだ冷蔵庫の中だった。」

これはホームパーティーの用意をしている場面として。
また、『本をめぐる輪舞の果に』には、こんな描写も出てきます。

「手の込んだ白いワイシャツ、ぴったり体に合った黒のビロードの銀ボタンのついたジャケット、膝あたりに揺れるスポラン、靴下にみごとにおさまった銀柄の短剣、みごとな留金のついた靴などがぴし、と決っていた。

これはスコットランド人の「クリモンド」の着こなしとして。
「スポーラン」sporran
は、十八世紀のスコットランドにはじまる「腰鞄」のこと。男性用ハンドバッグ。キルトにはポケットが付いていないので。スコットランドの正装には欠かせないものです。
どなたかスーツにも似合うスポーランを作って頂けませんでしょうか。

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