アーミンは、フランスの地名にもありますよね。
フランスの北西部、ロワール地方に。Anjou と書いて、「アンジュー」と訓みます。
一般に、「ロゼ・ダンジュー」と呼ばれているロゼ・ワインでも有名な地域であります。
もちろん赤ワインも、白ワインも、発泡性ワインをも造っているのですが。でも、ことにロゼ・ワインの産地として識られている場所なのです。
ロゼ・ダンジューは飲みやすく、お値段もお手頃。まさに言うことなしのロゼ・ワインなのです。
ロゼ・ワインはなにもフランスだけのことではありません。
イタリアには、「ヴィーノ・ロザート」があります。スペインには、「ヴィノ・ロサード」があります。
喫茶店に入りますと、「ティー・オア・コーヒー」と訊かれることがあるでしょう。
同じようにレストランに行きますと、「赤ですか白ですか」と、問われることがあります。でも、「ロゼにしますか」とは、あまり言われないものです。
でも、ロゼ・ワインにも美味しいものがたくさんあります。第一、相手の料理をそれほど問わないところがあるのですね。
ワインもまた、需要と供給の関係で値段が決まるわけで。ちょっと片隅に置かれているロゼ・ワインは、味に比較して、納得のゆくお値段になっていることが多いものです。
ロゼが出てくるくる小説に、『凱旋門』があります。1946年に、レマルクが発表した物語。1948年には、同じ題名で映画化もされているのは、ご存じの通り。主演は、イングリット・バーグマン。名画です。第二次大戦中の巴里を背景にした物語になっています。
『凱旋門』は、一般にカルヴァドスを世界に広めた小説だと考えられています。
物語の主人公、ラヴィックがよく飲んでいるのが、カルヴァドスなので。小説でも映画でも、なにかの折にカルヴァドスが登場します。
『凱旋門』はカルヴァドス最多登場の映画であることは間違いないでしょう。
でも、『凱旋門』にはカルヴァドスしか出てこないのではありません。
いろんな種類の酒が出てきます。1940年代の巴里では今よりももっと、酒の種類が多かったのでしょうか。
「カラフでヴァン・ロゼを一つ」と、ラヴィックは言った。 「アンジューはあるかね?」 「アンジュー、量りで、ロゼ。承知致しました。」
これは、「ベル・オーロル」というレストランでの会話として。
「量りで、」というのも、懐かしい。
ワインばかりではありませんが、昔は「量り売り」ということが少なくなかったものです。世界中で。もちろん、日本でも。
『凱旋門』にはコニャックも出てきます。
「クールヴォアジュ、マルテル、ヘネシー、ビスキュイ、デュブシェ、? 」 「クールヴォアジュにしよう。」
これはアパルトマンに着いて、コンシェルジュにコニャックを買ってきてもらうよう、頼んでいる場面。
「九0フラン。上等のポメリですよ !」。
こんなふうにシャンパンも出てきます。主人公のラヴィックは、フォアグラに添えてウオトカを傾ける場面も。『凱旋門』に出てこない酒を探す方がはやいのかも知れませんが。
『凱旋門』を読んでおりますと、こんな描写も出てきます。
「彼はディジーに外套を着せてやった。それは襟なしの黒い貂の毛皮だった。」
ここでの「彼」も、ラヴィック。女性が外出する時、紳士は外套を後から着せかけてあげるものです。
ここでの「貂」は、「アーミン」ermine のことではないでしょうか。
アーミンは季節によって色を変える動物。真冬にはまわりの雪にあわせて、純白に。
純白のアーミンは高級品とされるものです。
どなたかアーミンの外套を仕立てて頂けませんでしょうか。