ボオは、洒落者のことですよね。Beau と書いて「ボオ」と訓みます。
有名なところでは「ボオ・ブランメル」がいます。英語辞典にも出ているくらいですから。もちろん、「洒落者」の意味として。
ボオ・ブランメルは、通称。本名は、ブライアン・ブランメル。あまりにもおしゃれだったので、「ボオ・ブランメル」の名前で呼ばれたのです。
英語の「ボオ」は、1684年頃から用いられているんだとか。これはラテン語の「ベルウム」bellum と関係があるらしい。その意味は、「美しい」。
それで初期の「ボオ」は、むしろ「美男子」に意味で用いらたとのことです。
歴史上の「ボオ・フィールディング」なども、「美男子」の意味だったようですね。
日本人の「ボオ」は誰なのか。さあ、これは難しい。ひとつの例ではありますが、古波蔵保好。古波蔵保好は以前、「毎日新聞」の論説委員だったお方。その後、随筆家となって、多くの著書があります。もともと沖縄出身の人物。
なんと言ってもただ立っている姿が、美しかった。また、グレイのソフト・ハットがお似合いで。明治生まれの日本人で、古波蔵保好ほど、ソフト帽が着こなしの一部に溶け込んでいた人は外には知りません。
古波蔵保好は常に一定のスタイルを持っていました。すべてに古波蔵流を通した人物でもあったのです。
つまり永遠不滅の自分のスタイルを持っていました。誰にも真似ることのできないスタイルを。それは奇抜とはほど遠い、クラシックな装いだったのですが。
自分だけのスタイルを持つ。これがボオであることの第一条件でしょう。私のように、昨日と今日ではまるで違った服。これでは洒落者の「しゃ」の字からもはるかに遠い存在でしょう。
自分のスタイルを持っていた人に、チャーチルがいます。もちろん、ウインストン・チャーチル。Vサインに、シガーとステッキ。あれもチャーチルのスタイルのひとつだったでしょうね。
チャーチルが贔屓にしていたテイラーは、「ヘンリー・プール」。その昔、エリザベス女王の軍服を仕立てていたのも、「ヘンリー・プール」だったのですが。
ヘンリー・プールは今も昔も、上流階級の古典的衣裳を得意とするテイラーなのです。
これは時代に関係なくチャーチルがウイング・カラアのシャツを好んだこととも関係があるでしょう。
1953年4月24日。ウインストン・チャーチルは、当時のエリザベス女王から、「ガーター勲章」を授けられています。ガーター勲章は英国でもっとも栄誉ある勲章なのです。
ガーター勲章の制服は、ブルーのヴェルヴェットのマント。白いタフタの縁取りがあって、紅いやはりヴェルヴェットのフードのつくマント。それに白いサテンのブリーチーズ。十七世紀の伝統衣裳であります。
チャーチルはレストランでは、「カフェ・ロイヤル」に通った時期もあるとのこと。1865年創業の、リージェント・ストリートにある老舗。「カフェ・ロイヤル」とはありますが、実際には食事もできるレストラン。
そもそもチャーチルの好物は決まっていて。ビーフ・ステーキか、ドーバー・ソールか、牡蠣。
それで九十歳までお元気だったのですから、言うことなしです。
1924年、四十九歳のチャーチルは、大蔵大臣に。チャーチルはとても喜んで。それというのも、かつて父のランドルフ・チャーチルが望んでいた職責だったので。
その日、チャーチルは家に帰ると、ランドルフのドレッシング・ガウンを奥から出して、それを羽織ったという。
若い時のランドルフ・チャーチルの写真を眺めますと。水玉模様の蝶ネクタイを結んでいます。
ドットのボウ・タイもまた、チャーチルのスタイルでありました。
それも実はウインストン・チャーチルとしては、二代目だったのですね。
ボウbow は「蝶ネクタイ」のこと。世界中でもっとも結び方の簡単なネクタイです。蝶結びにするだけのことですから。
どなたか古典的な織柄のボウを作って頂けませんでしょうか。
Previous Post: アンジューとアーミン