バニラは、植物のひとつですよね。
vanilla と書いて「バニラ」と訓みます。原産はメキシコではないかと考えられているようですが。
今では暖かい国ならたいていの場所で栽培できるとのことです。
バニラの本体は、緑色の細長い莢。これを乾燥させますと、黒い莢になります。この中に黒い粒が入っていて。素晴らしい香料になってくれるのですね。
ケエキつくりにもバニラは欠かせません。
バニラ・アイスクリイムというではありませんか。
バニラ・アイスクリイムをよく見ると、小さな黒い点が入っていることがあります。あれは本物のバニラを使っている証拠なんですね。
「なべに、バニラビーンズをさやから種をしごき出して入れ、牛乳、生クリームを加え、ふっとう直前まで温めて、火を止める。」
今田美奈子著『お姫さまお菓子物語』に、そのように出ています。
「ポンパドール夫人のアイスクリーム」のつくり方について。
その昔、マダム・ポンパドールは、大きなアイスクリイムをつくり、そこに生クリイムでフリルを着せて、人形型にして客に出したことがあるんだとか。
「アイスクリーム、それもヴァニラ・アイスクリームは、よそゆきの洋服を着て、レストランやデパートの食堂で緊張しながら頂く晴れがましい食べものであった。」
向田邦子は『父の詫び状』の中で、そのように書いてあります。
向田邦子がまだ子供の頃、戦前の話として。
向田邦子は昭和二十三年の夏、学生アルバイトした話もここに出てきます。アイスクリイム売りのアルバイトを。
「アイスクリームの卸屋は、たしか今の神谷町あたりだったと思う。まず、そこで三十人ほどの学生がアイスクリーム・ディッパーの操作を習った。」
その頃、向田邦子は麻布市兵衛町の、お母さんの実家に住んでいたので。
麻布市兵衛町は、戦前まで永井荷風の自宅があったところ。
バニラが出てくる小説に、『ウールフ、黒い湖』があります。1948年に、ヘラ・S・ハーセが発表した物語。
「ぼくの母は、色つきのグラス ー ぼくには赤、ウールフには緑 ー に、バニラ・シロップを注いでくれた。グラスの縁に氷が当って澄んだ音をたてた。」
また、『ウールフ、黒い湖』には、こんな描写も出てきます。
「ウールフはバティック柄のスレンダンに包まれシドゥリスの背で揺れていたにしろ ー あり続けたのも尤もなことだ。」
これは当時のジャワが背景になっています。「バティック」batik が出てくるのも当然でしょう。
童謡に歌われる「ジャワさらさ」は、バティックのことなのですからね。
バティックは、蝋けつぞめのこと。
どなたかバティックの上着を仕立てて頂けませんでしょうか。