バナナは、芭蕉のことですよね。
バナナは英語、芭蕉は日本語。
芭蕉は大きく分けて、実芭蕉と糸芭蕉とがあります。私たちがふつうに食べているのは、実芭蕉。バナナの実が大きく実るので、「実芭蕉」。
一方の糸芭蕉は、緑の葉が大きい種類。この糸芭蕉からは細い、強い繊維が得られるのですね。
糸芭蕉の繊維で織った生地が、芭蕉布。夏には最適の植物繊維になってくれます。
日本でのバナナはいつ頃はじまっているのでしょうか。たぶん明治に入ってからのことかと思われます。
「僕に当時新しかつた果物や飲物を教へたのは悉く僕の父である。バナナ、アイスクリイム、パイナツプル、ラム酒、 ー まだその外にあつたかも知れない。」
芥川龍之介は大正十五年に発表した随筆『点鬼簿』の中に、そのように書いています。
芥川龍之介は明治二十五年三月一日の生まれですから、明治中期の話なのでしょうか。
その昔、アレキサンダー大王が、紀元前322年頃、インドに遠征した時、はじめてバナナを見たという。
もっとも古代エジプトではすでにバナナが食用になっていたとのことですが。
話は飛びますが。1891年にゴーギャンが描いた絵に、『食事』があります。この絵の中の食卓には、たわわなバナナの房が描かれています。十九世紀末、ゴーギャンがタヒチ島でバナナを食べたのは、間違いないでしょう。
今、私たちが食べているのは、多くカヴェンディッシュ種のバナナなんだとか。それもたいていは、フィリッピン産。フィリッピンのミンダナオ島で。
夏目漱石が、明治四十一年に発表した短篇に、『夢十夜』があります。十夜、十編の夢を綴った小説なので、『夢十夜』。
「水蜜桃や、林檎や、バナナを綺麗に籠に盛つて、すぐ見舞物に持つて行けるやうに二列に並べてある。」
もちろん、夢の中での話として。「庄太郎」が水菓子屋の店先を眺めている様子。
では、「庄太郎」はどんな帽子をかぶっているのか。
「その癖自分はパナマの帽子を被つてぶらぶら遊んでゐる。」
パナマ帽もまた、細い、丈夫な繊維で編んだ帽子のこと。パナマ草の繊維が原料となります。
これを編むまでに仕上げた材料のことを、「ヒーピーハパー」と呼ぶわけですね。
どなたか芭蕉の繊維でパナマを編んで頂けませんでしょうか。