ロールスロイスは、ロールズ・ロイスのことですよね。
Rolls Royce と書いて、「ロールズ・ロイス」。
英国では「ロールズ・ロイス」と訓むんだとか。
1906年に、フレデリック・ヘンリー・ロイスと、チャールズ・スチュアート・ロールズの二人がはじめた会社なので、「ロールズ・ロイス」。
1907年には手作りの「シルヴァー・ゴースト」を、巴里のモーター・ショウに出品しています。
その時のロールズ・ロイスは銀色の車体で、エンジンの音が静かだったから。
当時のロールズ・ロイスは一台に一年くらいかかったという。すべて手作りだったので。
客が、「馬力はどのくらい?」と問うと。
「お客様の必要とされるだけ。」
そんなふうに答えたという。最高速度さえ公表されていなかったので。
ロールズ・ロイスの中でも高級車とされるのが、「ファントム」Phantom
。エンジンがかかっているのに、誰もそのことに気づかなかった。そんな伝説があるくらいに。
今の時代でもロールズ・ロイスは、エンジン音をいかに車内に伝えないかに、十二分の注意を払っているそうですね。
作家の森 遥子が1987年に発表した短篇に、『ロールスロイス』があります。
「わずかばかりのスペースを探しながらバイクを流していると、象牙色に輝くロールスロイスが眼についた。」
そのようにはじまる物語。バイクに乗っているのは「イサム」という若者。
ロールスロイスに乗っている男がイサムに、「たばこの火を貸してくれ」と。
そこでイサムはご自慢のジッポを取り出して。すると。
「そのジッポが連続十回点火するか、どうか賭けよう」と。
もしジッポが連続十回点火したらロールスロイスは君のものだ、と。
最後のオチは読んでからのお愉しみとっておきましょう。
ロールスロイスが出てくる随筆に、『黄昏のロンドンから』があります。当時ロンドンに暮していた木村治美が、1976年に発表したエッセイ。
「ほかにも駐車している車はあるのに、なぜかロールスロイスは、かならず劇場の真正面に、ドアを開いて待ちうけているのです。」
木村治美はそのように書いています。これは単なる偶然ではなくて。ロールスロイスだけはいつもいちばん便利な所に停まって、主人を待っていた、と。
もしもそうだとすると、これもまた、ロールスロイスのご利益なのかも知れませんね。
『黄昏のロンドンから』には、こんな描写も出てきます。
「主人は、ロンドンの町を歩きまわるとき、とっくりセーターにレインコートをひっかけ、」
ここでの「主人」は、学者だった木村 駿のことなのですが。
木村 駿がパブに入ろうとすると。中から出てきた客が。「あなたの入口はあちらだ。」と言ったという。
つまり紳士用のサルーンを指さして。
ロンドンのパブは紳士用と労働者用とに分かれているので。
「とっくり」は、日本語。アメリカ英語で、「タートルネック」。イギリス英語で、「ロール・ネック」roll neck 。
どなた象牙色のロール・ネックを編んで頂けませんでしょうか。