ロベスピエールとローン

ロベスピエールは、人の名前にもありますよね。
Robespierr と書いて「ロベスピエール」と訓むんだそうですね。
たとえば、マクシミリアン・ロベスピエールだとか。
フランス革命期の政治家です。
その昔、歴史の時間に習ったような記憶があるのですが。
歴史はさておき、おしゃれ語にも「ロベスピエール・カラー」があります。
古典的な、大きな、立ち折れ襟のこと。1790年頃、ロベスピエールが愛用したので、その名前があります。
ナポレオン・カラーにも似ているもの。でも、ロベスピエール・カラーの方が、全体に柔らかい印象のあるものです。
マクシミリアン・ロベスピエールは1758年5月6日に、フランスのアラスに生まれています。
アラスはフランス北東部の町。Arras と書いて「アラス」。
古くは「メネタクム」とも呼ばれた地域。
今に英語で精密な綴織のことを、「アラス」と表現することがあります。
これもフランスの地名「アラス」に因んでのことであります。
アラスでは、1384年以降、精密な織機が導入されて、綴織の名産だったので。
アラスは綴織のみならず、あらゆる織物のメッカだった時代があります。これは当時のブルゴーニュ公が産業として保護したことによるものです。
フランスの作家、ロマン・ロランは、1939年に『ロベスピエール』と題する戯曲を発表しています。この中に。

「わしは何も怖れはしない。真理と美徳を護衛にもっているんだ。」

そんなロベスピエールの科白が出てきます。
おそらく実際のロベスピエールも、強い信念の持主だったのでしょうね。
ロベスピエールが出てくる小説に、『神々は渇く』があります。1931年に、アナトール・フランスが発表した物語。

「《人民の友》の亡きあとエヴァリストはマクシミリアン・ロベスピエールの教義を信じていた。」

ここでの《人民の友》は、「マラー」のことを指しているのですが。
もちろん『神々は渇く』は、時代小説なんですね。
また、『神々は渇く』には、こんな描写も出てきます。

「かわいい栗色の手首がリネンのローンの上へ針を運んでいった。」

これは「エロディ」という女性が刺繍をしている場面として。
「ローン」lawn はごく薄手の生地。今はコットンもありますが、本来はリネンで織られた生地。
その昔、フランスの「ラン」Laon で織られた生地なので、その名前があります。
ランは、フランス北部の町。ラン郡の郡都でもあります。
町にはオワーズ川が流れていて、織物にも適していたのでしょう。
巴里から北東に約120キロ離れた場所。
ローンが出てくる小説に、『女であること』があります。昭和三十二年に、川端康成が発表した長篇。

「ピノキオの繪の子供ハンカチイフが四十圓、そんななのから、一枚七百圓もするロオンのレエスのまで、どれも五寸四方ほどの、女もちろんのハンカチイフが長いシヨウ・ケエスのなかにならんでゐる。」

これは百貨店のハンカチ売場を眺めている場面。
昭和三十年頃の「七百圓」は、今の七千円くらいなのでしょうか。
どなたか麻のローンのハンカチを作って頂けませんでしょうか。