徳利は、日本の酒器のことですよね。
酒はふつう盃で飲む。この盃に注ぐのが、徳利。
徳利は室町時代からあったという。でも、なぜ「徳利」の名前になったのか、よく分っていないんだそうですね。
室町時代の徳利は備前焼が主で、安くて丈夫だったので、「徳利」になったとも。
もともとは「とくり」と訓んだのでしょう。が、今はたいてい「とっくり」と訓むことが多くなっています。
「はるばるここに来て久しぶりなれば、せめて盃事を」と、一腰の鍔をはづして、見せぬやうに徳利を下げてゆくを、」
井原西鶴の『好色一代男』に、そのような一節が出てきます。
これは世之介が友人を訪ねる場面として。
井原西鶴はすでに「徳利」と書いています。それ以前には「得利」とも書いたようですが。
世之介は友だちの家に一泊。その友だちは。
「山に狸が出るので、狸汁をご馳走しよう」と言ってくれる。まあ、のんびりした時代だったのでしょう。
「御祖父さんは銅壺の中に酒を一杯入れて、其酒で徳利の燗をした後を悉く棄てさした程の豪奢な人だと云ふから、」
夏目漱石の『彼岸過迄』に、そんな科白が出てきます。
これは「松本の話」として。
うーん。酒でもって酒の燗をする。昔はそんな粋なお方もいらしたのでしょう。
「鴇色に銀の雨を刺す針差を裏に如鱗木の塗美しき蓋をはたと落した。」
夏目漱石の『虞美人草』に、そんな文章が出てきます。
これは針仕事の途中での様子として。
ここでの「如鱗木」は、魚の鱗に似た塗りのこと。
また、「鴇色」は、淡いピンク。
鳥の鴇の羽根の色に似ているので。
つまり薄紅色のこと。
着物の時代には、鴇色のちりめんが少なくなかったという。今に、「鴇色ちりめん」の言葉が遺っているほどに。
どなたか鴇色ちりめんのネクタイを作って頂けませんでしょうか。