カウンターとカプ

カウンターは、長い台のことですよね。
バア・カウンターなんていうではありませんか。
counter と書いて「カウンター」と訓みます。
もともとの意味は、「勘定台」。この台の上でお金を数えたので、「カウンター」。
今ではもっぱら空けたグラスの数を数える場所になっているようですが。

「自分は突と戸を押して這入ると、カウンターに身を寄せながら労働者の一群が、各コツプを片手に、高声で話合つて居たが、」

永井荷風の『あめりか物語』に、そのような一節が出ています。
これは1906年頃のニュウヨークでの見聞として。
ニュウヨークの場末のサルーンで。荷風はここでは「サルーン」と書いていますので。
夜の十二時すぎのこと。荷風はたぶんニュウヨークの隅から隅まで探険したのでしょうね。
永井荷風がニュウヨークに着いたのは、1905年6月30日の夕方。
ブルックリンのコンコード通り十七番地に、旅装を解いています。
同じ年の12月7日からは、当時の「正金銀行」ニュウヨーク支店勤務となっています。
荷風がニュウヨークを発ってフランスに向かったのが、
1907年7月18日。ざっと三年の間、ニュウヨーク暮し。
おそらく夜の酒場に足を向けることだってあったでしょう。
カウンターが出てくる小説に、『霧けむる王国』があります。この場合の「霧けむる王国」は、ロンドンを指してのことなのですが。
2002年に、英国の作家、ジェイン・ジェイクマンが発表した歴史小説。

「ブランデーを一杯。大きいグラスで頼むよ、ねえさん」ガレッティはコイン数枚をカウンターに置いた。

ガレッティは、ロンドンの警部補という設定になっています。
『霧けむる王国』の時代背景は、1900年に置かれているのですが。
『霧けむる王国』には、こんな描写も出てきます。

「がっしりした身体つきの老画家は室内を動きまわり、こわばった指の関節をもみほぐし、分厚いケープを脱ぎ捨て、グラスにワインを注ぎ、それからやっと窓際のデスクに向って腰をおろした。」

ここでの「老画家」は、クロード・モネ。
晩年のモネがロンドンを描くためにロンドンを訪れた事実が縦糸になった物語。
この時のモネ、ケープを羽織っていたんですね。
ケープは英語。フランス語源では、「カプ」cape 。
どなたか1900年のカプを再現して頂けませんでしょうか。
モネと名づけて愛用致しますから。