オーヴァーオールズ(overalls)

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永遠の少年服

オーヴァーオールズはいわゆる「つなぎ」のことである。時に、「つなぎ服」とも。

オーヴァーオールズはズボン形式なのだが、そのズボンに加えて胸当てと肩紐とが添えられたスタイルのものだ。

オーヴァーオールズにやや近いものに、「カヴァーオールズ」 coveralls がある。カヴァーオールズもまた、「つなぎ」と呼べなくもない。カヴァーオールズは下半身に加えて上半身をも包む形式のものである。ジャンプ・スーツにも似ている。

「オーヴァーオールズはジーンやホワイト・キャンバスで仕立てられる丈夫なパンツのこと。ビブ・トップとサスペンダー・ストラップとが付き、専用の金属製のボタンとループとで留める。農夫、大工、塗装屋などによって着られた歴史を持っている。」

シャーロット・カラシベッタ著『フェアチャイルド版ファッション辞典』には、そのように説明されている。また、文末には次のようにつけ加えられている。

「ビブトップ・パンツ、サスペンダー・パンツの別名もある。」

オーヴァーオールズはどちらかといえばアメリカの匂いのする言葉であるのかも知れない。もちろんイギリスでもオーヴァーオールズの表現はあるのだが。そういえばイギリスでは時に「ボイラー・スーツ」と呼んだりもするらしい。それはちょうどカヴァーオールズのことを「サイレン・スーツ」と言ったりするのに似て。

「彼は腰から足首までをボタン留めにする式のオーヴァーオールズを身に着けていた。」

シルヴェスター・ジャド著『マーガレット』 ( 1845年刊 )の一節。シルヴェスター・ジャドは、十九世紀、アメリカの宗教家であった人物。

「オーヴァーオールズ」の使用例としては比較的はやいものかも知れない。ただしここでの「オーヴァーオールズ」が、今、我われが想起するオーヴァーオールズと同じであるかどうかは定かではないのだが。

「技術者のための、キャンバス・オーヴァーオールズは、ホワイト・コットン地で、腰から下を包むだけでなく、胸、肩、腕までも覆うようになっている。」

1861年の『アーミー・レギュレイション』の一文。「腕」とある部分に疑問がなくもないが、一応、原文通りに紹介しておく。おそらく十九世紀中葉からオーヴァーオールズらしきものはあったのだろう。そしてその役割は、下の、通常の服を汚れから守るためのものであった。つまり「重ね着」のための服装だったのだろう。

「エプロンとショルダー・ストラップ付きの、ペインターのための、ホワイト・ドリル製のオーヴァーオールズ。」

1897年度版『シアーズ・ローバック』のカタログの説明文である。胸当てのことを「エプロン」と呼んでいたものと思われる。また、「ペインターのための」と限定されているところも、面白い。「ドリル」 drill は丈夫な綾織綿布のことである。当時のオーヴァーオールズは、白無地が多かったのだろう。

「オーヴァーオールズを身に着けた育ち盛りの少年と、無精髭の男とが並んでいる様子は、仲睦まじい光景である。」

1908年『スマートセット』誌6月号の記事の一文。ここでは少年がオーヴァーオールズを着ている。少年は活発な動きをするもので、オーヴァーオールズは最適の服装でもあったに違いない。

十九世紀のオーヴァーオールズは主に、特別な作業のための「上っ張り」の一種としてはじまったのであろう。それは第一の目的として、二十世紀に入ってからは、「少年服」ともなるのである。

アリス・ハリス著『ザ・ブルー・ジーン』は優れた書物である。この中には貴重な写真が多く添えられてもいるのだ。たとえば1920年代のポストカードとか。そこには鉄道線路で働く六人の男たちが写されている。そしてその六人の男は皆、オーヴァーオールズ姿なのだ。1920年代の労働者にとってのオーヴァーオールズは制服にも似た存在であったに違いない。
六人のうち、二人はブルーのオーヴァーオールズであるように思われる。残り四人はヒッコリー・ストライプ柄のオーヴァーオールズを着ている。1920年代には、ヒッコリー・ストライプのオーヴァーオールズが少なくなかったようである。

また1938年10月、アメリカ、アーカンサスで写された写真がある。写真家はラッセル・リー。それは小学校の黒板にアルファベットを書いている少年少女の様子なのだ。男の子が三人、女の子が三人。三人の男の子はいずれもオーヴァーオールズである。三人の女の子は皆、ワンピース姿。1930年代のアーカンサスで、オーヴァーオールズが少年の通学服でもあった、と考えて良いだろう。

「彼は細身のオーヴァーオール・トラウザーズと、ブルーのパトロールジャケットを着ていた。古めかしくはあったが、とてもエレガントに見えた。」

イーヴリン・ウオー著『彼を倒せ」の一節。

たしかにオーヴァーオールズもまた、着こなしによっては優雅に見えるものなのであろう。

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