アスフォデロと麻服

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アスフォデロという名の花があるんですってね。

須賀敦子著『アスフォデロの野をわたって』を読んで、それを知ったのですが。アスフォデロは、イタリア語。英語では、「アスフォデル」 asphodel になるんだとか。また、「アスフォデルス・アルブス」の呼び名もあるらしい。

もちろん現実の花でもあって、ユリ科の植物。白い花を咲かせてくれる。ただ、ギリシア神話では、「不死の花」とされたという。不死の花であるために、古くから様ざまな物語に採り入れられたりも。
ホメロスの『ユリシーズ』に出てくることは、『アスフォデロの野をわたって』にある通りです。
アスフォデロは「不死の花」でもあるのですが。その根には薬効があると信じられていた。根を煎じて飲むと、眠り薬に。まるで死んだかのように、眠ってしまう。

それからまた、アスフォデロの根は糊代りにも。シャツの襟や袖口に張りを与えるにも使われたんだとか。

『アスフォデロの野をわたって』は、今は『ヴェネツィアの宿』に収められています。須賀敦子は、達意の文章を書く人。心の中に小さなロウソクの火を灯してくれるところがあります。『ヴェネツィアの宿』には、『夏のおわり』もふくまれています。

「カンカン帽に白い麻の三つ揃いでステッキを斜めにかまえた……」

これは「鬼藤の伯父」の写真の中の姿。もしかすれば明治の末頃のものでしょうか。昔の男はどんなに暑くても、冷房がなくても、「白い麻の三つ揃い」を着ていたのですね。

スリーピース・スーツというわけではありませんが。麻の上着で、アスフォデロの花見に行きたいものです。

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