時代を変えた小説というのがありますよね。もっとも、そんなに多いわけではありませんが。
時代を変えた小説。たとえば、『路上』。原題もまた、『オン・ザ・ロード』。作者は、ジャック・ケルアック。
アメリカの端から端までをヒッチハイクする物語だから、『オン・ザ・ロード』。そしてまた東洋思想でいうところの「道」にもかけての題なのでしょう。ただしこれはジャック・ケルアックが実際に経験した物語でもあります。
『路上』の時代背景は1940年代末のこと。ジャック・ケルアックは1951年に、一気呵成にこの物語を書いたそうです。出版は、1957年。ボブ・ディランは『路上』を読んで、家を出たと伝えられています。『路上』はボブ・ディランを変え、時代を変えたのです。
『路上』はまずはじめ、NYから。NYでディーンがスーツを買う場面があります。それはダーク・ブルーのスリーピース・スーツで。NYの三番街で、買う。11ドルだと記されています。このスーツには、ペンシル・ストライプが入っていた、とも。
ディーンはスーツの他には、それのための懐中時計と、タイプライターとを買い求めています。
タイプライターといえば、ジャック・ケルアックは当然、『路上』をタイプライターで仕上げた。ただし、長く一枚につなげた原稿用紙に。物語の流れを分断するのを避けるために。それで、『路上』の第一稿は、太い巻紙になったという。
幸運なことにこの「巻紙」は捨てられてはいなかった。「巻紙」は2001年にオークションで、250万ドルで、落札。戦後に書かれた「生原稿」としては、歴史はじまって以来の高値だったという。
『路上』が出てくるミステリに、『愛しき女に最後の一杯を』があります。ジョン・サンドロリーノが、2013年に発表した物語。
「カタリナ島のサル・パラダイスが発する訳のわからない心理用語を解するのに適した週ではない。」
サル・パラダイスが『路上』の登場人物であるのは、いうまでもないでしょう。『愛しき女に最後の一杯を』の中に。
「カウンターの反対側の端にいるアロハシャツの大柄な男が………」。
「アロハシャツ」はまた、「ハワイアン・シャツ」とも。時にはハワイアン・シャツも着てみたいものですね。