マルテルとマフラー

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マルテルは、ブランデーの銘柄ですよね。コニャック。コニャックは、マルテルでなくては、とおっしゃる愛好家もいらっしゃるようで。
マルテル Mart ell はフランス訓み。マーテルはイギリス訓み。今の「マルテル」の創業者は、英国人のジャン・マーテル。マーテルが1715年に、ジャージ島から、フランスのジロンド県に移ってはじめたので、「マルテル」。
「マルテル」はむかし、「コニャック・レザー」を作っていました。コニャック色のレザー。キッドとカーフのコンビで。
コニャック色は、オークの樽で寝かせるので年とともにあの色が生まれるわけですね。
コニャック造りで、決してしてはいけないのは、クモをやっつけること。蔵でのクモは守り神なので。
オークの樽はむかし、柳の木で箍を嵌めた。ところが柳の木を食べる虫がいて。この虫が大好物なのが、クモ。だから、クモをやっつけてはいけない。
マルテルが出てくる小説に、『白い夜』があります。大佛次郎が、1939年に発表した短篇。この中に。

「マルテルのコルドン・ブルウはない?」

あるバアで、貴婦人がバアテンダーの問う科白。まことに、ご趣味のおよろしいことで。また、『白い夜』にはこんな描写も。

「派手に赤い縞が入つてゐたが黒い色をしたマフラーである。」

これは、「北沢」という男のしているマフラー。黒地に赤い縞。
まあ、好みのマフラーを巻いて、マルテルを飲みに行くといたしましょうか。

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