カメラは、写真機のことですよね。ついこの間まで「写真機」と言っていた記憶があるのですが。今はほとんどデジタル式で、「写真機」の呼び名とは大いなる隔たりがあります。
その時代がかった「写真機」を偏愛したお方に、萩原朔太郎がいます。萩原朔太郎はもちろん、詩人。
萩原朔太郎のお嬢さんが、萩原葉子。萩原葉子のご子息が、萩原朔美。つまり萩原朔美は朔太郎のお孫さんということになるわけですね。
萩原朔太郎は若い頃から器用で、多趣味で。たとえばマンドリンなんかもお上手で。一時は音楽家になろうと、思っていたらしい。
その朔太郎が凝ったのが、写真機。どんな写真機だったのか。
「普通の寫眞機は、レンズが一つしかないのであるが、僕のはレンズが二つあつて、それが左右同時に開閉し、一枚の細長い乾板に、二つの同じやうな繪が寫るのである」
萩原朔太郎は、『僕の寫眞機』と題して、こんな風に書いています。昭和十四年『アサヒカメラ』十月号に。
萩原朔太郎が熱愛した「寫眞機」は、立体カメラだったのです。当時は、「ステレオスコープ」の名前で呼ばれたらしい。朔太郎は愛用の「ステレオスコープ」活用して、実際に多くの寫眞を写してもいます。また、晩年になってからも、いつも近くにステレオスコープを置いて眺めていたという。
カメラが出てくるミステリに、『デンネッカーの暗号』があります。J・C・ポロックが、1982年に発表した物語。
「ポーラはカメラを取り出して、バッグの中を調べた。二重底は巧妙につくられていて、なにげなくのぞいたのではとても見破れないものだった。」
まあ、スパイが登場する物語ですから、そんなこともあるのでしょう。また、『デンネッカーの暗号』には、こんな場面も。
「 「失礼、お嬢さん」と、彼はカウボーイ・ハットに手をやった。」
これはネルソンという男が、ポーラ・カールソンに対しての様子。カウボーイ・ハットにもいくつかの呼び方があります。が、もっともよく用いられるのは、やはり「カウボーイ・ハット」。
時にカウボーイ・ハットをかぶって、カメラを引っ張り出したいものですが。