高いことは、いいことですね。高い知能、高い志操、高い理想。低い理想では困ります。私のように。なんでも低いより、高いほうがよろしい。ロウであるよりも、ハイであるほうが。
そういえば、アメリカ映画に『ハイ・ヌーン』というのがありましたね。1952年の名画。ゲイリー・クーパーとグレイス・ケリーの共演。邦題は、『真昼の決闘』。
ゲイリー・クーパーは保安院の役。ちょうど十二時に着く列車で、悪漢が町に戻ってくる。クーパー演じる保安官は任期が切れているのに、その悪漢たちとたった一人で戦う。一応、西部劇なんでが、故き佳き時代の、良心を描いた映画。高い心意気の映画とも言えば良いでしょうか。
「高い」と関係あるハードボイルドに、『ハイ・ウインドウ』があります。かの、レイモンド・チャンドラーが、1942年に発表した物語。邦題も、『高い窓』。実にうまい題をつけたもので、まことに象徴的なタイトルになっています。暗示的でもありますね。
チャンドラーは偉大な作家で、チャンドラーがいたからこそ、後に、ロバート・B・パーカーのようなハードボイルド作家が生まれたわけですから。チャンドラーは、ハメットから誕生しているわけで、少なくともハメット、チャンドラー、パーカーは、ひとつの線で結べる系譜でありましょう。パーカーがいかにチャンドラーの影響を受けているのか。たとえば。
ロバート・B・パーカーの、『愛と名誉のために』を読んでいると。
「荷造りが終わると、『大いなる眠り』を読んで寝た。」
これ主人公の、ブーン・アダムズの様子。『大いなる眠り』がチャンドラーの代表作であるのは、いうまでもないでしょう。もっともブーン・アダムズは作家志望の青年ですから、当時でもあるのでしょうが。
『愛と名誉のために』は、1983年年の発表。私は勝手にこれをファッション小説として読んだ一人です。少なくとも、1980年頃の、アメリカの若者風俗がどうであったかを知る上での、教科書ではあるでしょう。この中に。
「ブレイザー はオール・ウールでタターサル・チェックの裏がついている。」
これもまた、ブーン・アダムズの持物。訳者は、菊池 光。ちゃんと「タターサル」になっています。英語でのt att ers a ll は、「タターサル」に近い発音になるんだとか。
一応、タターサルのチョッキは持っていますが。着こなし意識は依然低いままですが………………。