林檎酒は、シードルのことですよね。シードルが訛って、日本語の「サイダー」になったんだとか。
葡萄の果汁を醸造すると、葡萄酒に。林檎の果汁を蒸留すると、林檎酒に。葡萄の好きなのが、温暖地。林檎の好きなのが、寒冷地。
ですから、世界のおおかたの国で、葡萄酒か、そうでなければ、林檎酒が造られるようになっています。これはもう、天の配剤と感謝するべきでしょうね。
クレープはもともと北フランス、ノルマンディーの郷土食だったらしい。今なおクレープにシードルを添えるのは、理に叶っているのでしょう。
林檎酒が出てくる小説に、『ジャン・クリストフ』があります。1912年に、ロマン・ロランが発表した物語。
「モーゼルの白葡萄酒をとくべつ好いていた。葡萄酒であれビールであれ林檎酒であれ、とにかく神さまがおつくりになったすべてのすばらしいものに對して彼は正當な態度を取ることを心得ていた。」
ここでの「彼」が、ジャン・クリストフであるのは、いうまでもありません。ジャン・クリストフのモデルは、ベートーヴェンだとの説があります。ということは、かのベートーヴェンもシードルがお好きだったのでしょうか。
林檎酒が出てくるミステリに、『幽霊に憑かれた巡査』があります。ドロシー・L・セイヤーズが、1938年に発表した物語。
「新しく生まれてきたおこさの、長命と幸福を祈って、乾杯! おお、リンゴ酒みたいな味ですね。」
これは生まれてはじめてシャンパンを飲んだ巡査の、感想。余談ではありますが。そのシャンパンは、ポール・ロジェエの、1926年物という設定になっています。
『幽霊に憑かれた巡査』には、こんな描写も。
「オレンジ色を基調にした、かなり幅広のリバティ・タイがあるのを思い出した。」
これはもちろん、主人公、ピーター・ウイムジーが変装する場面。おそらくは、リバティ・プリントのネクタイなのでしょう。
さて、リバティ・プリントのタイを結んで、林檎酒を飲みに行くとしましょうか。