熊谷という地名がありますよね。埼玉県熊谷市。この熊谷は、むかしの武将、熊谷次郎直実と関係があるとの説が。
熊谷次郎直実は、『平家物語』でも有名ですね。源氏と平家の戦い。一ノ谷の合戦。一ノ谷は、今の神戸のあたり。今からざっと千年ほど前の物語。
一ノ谷でも平家が破れて、海から舟で逃れる。それを波打ち際まで追うのが、熊谷次郎直実。そこで、立派な若武者を見つけて、呼びとめる。熊谷直実がとどめを刺そうとすると。
「我子の小次郎がよはい程にて、容顔まことに美麗なりければ…………………」。
直実の息子と同じくらいの歳。十七歳ほど。美しい。で、直実は命を助けようと。「さあ、名を名乗れ」と。でも、その若武者は名を名乗らない。そうこうするうち、味方の軍勢が押し寄せて。命を助けることはできない。
直実は頸を落として、軍装をあらためる。と、衣裳の下から、一管の笛が。
「ああ、けさの明け方、笛の音がしたが、なんと風流なことよ」と感心する。
直実がこの話を義経にすると。源氏の武将は皆、泣いたという。
後でわかったのは、その若武者は平 敦盛であって。熊谷次郎直実は、人生の儚さを知って、出家したのであります。
熊谷が出てくる小説に、『痴人の愛』が。谷崎潤一郎が、大正十三年に発表した物語。
「本名を熊谷政太郎、一名をまアちゃんと申します………………」。
熊谷政太郎は、主人公の友人という設定。また、『痴人の愛』には、こんな描写も出てきます。
「私のクレバネットを出して腰の周りを包んではゐましたが………………」。
クレヴァネット cr a v en ett e は、レイン・コート用の防水地。英國、ベッドフォードの、トオマス・クレイヴンが考案したので、その名前があります。
なにかレイン・コートを羽織って、熊谷に行ってみましょうか。