トルコ・コーヒーというのがありますよね。うんと濃い、コーヒーの飲み方。
一時、トルコ・コーヒーに凝ったお方に、團 伊玖磨がいます。随筆、『パイプのけむり』に、「トルコ・コーヒー」と題してお書きになっているからです。
「下の方には砂糖とコーヒーが沈んでいるから、掻き回さないで上澄みをそっと飲む」
そんなふうに書いています。今のコーヒーはたいていドリップ式が多いものです。つまりコーヒーの粉から、コーヒー液を得るやり方で。でも、トルコ・コーヒーはそれ以前の、分離しない方法。コーヒー粉と砂糖と水とを一緒に直火にかける。直火だと持っている手が熱くなるので、把手がうんと長い。この独特の器を、「ジャズベ」と呼ぶわけですね。
沸騰する前に火からおろし、小さなカップに注ぐ。注がれた客は、静かに、ゆっくりと、上から口に運ぶ。
よく「コーヒー占い」ってありますよね。あのコーヒー占いは、トルコ・コーヒーだからこそ。カップの底に残ったカスの模様に、その人の人生の未来を読むわけですから。
若き日のクリスチャン・ディオールも、コーヒー占いをしてもらったことがあるという。その結果は。
「あなたは将来、女の人によって成功をおさめるであろう。」
ディオールの場合には、たしかに正解だったわけですが。
トルコ・コーヒーであるとは断定しませんが。コーヒーが出てくる小説に、『エヴァンジル通り』があります。1938年に、マルセル・エメが発表した物語。
「ほうきの柄に寄り掛かったまま、主人はアラブ人がコーヒーを飲みほすのを眺め…………………。」
また、『エヴァンジル通り』には、こんな描写も出てきます。
「一人は若い男で、耳にひっかけるようにしてソフトをかぶり、トレンチ・コートのベルトを無造作に結んでいた。」
これは、若い刑事の着こなし。
なにかトレンチ・コートを羽織って、美味しい珈琲を飲みに行きたいものですが。