真っ赤と繭色

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone

真っ赤は、真紅のことですよね。真っ赤なルージュだとか、真っ赤なマニキュアだとか。男たちはたいていこれらの「真っ赤」に、心迷わせるものなんですが。
また一方で、「真っ赤なウソ」なんてことも。聞いたほうが真っ青になるようなウソでも、「真っ赤なウソ」。真っ青なウソとは言いません。どうしてウソは「真っ赤」なのか。今後の研究課題でしょう。
ウソが趣味だった文士に、遠藤周作がいます。遠藤周作は友だちの作家に電話をかけて、たわいもないウソで、ひとりほくそ笑む。そんなところがあったらしい。
ある時、遠藤周作から安岡章太郎のところに電話があって。
「○○嬢と一緒に食事するので、つきあってくれないか」
○○嬢は、当時売れっ子の女優。安岡章太郎はいつものことなので、「ははん、また遠藤のホラがはじまったわい」と。でも、なんか真剣なところもあって。近藤啓太郎、吉行淳之介も誘おうという。
どうして一流の女優が遠藤周作を誘ったのか。○○嬢はシェイクスピア劇に挑戦したいと考えていて、シェイクスピア劇についてお伺いしたい。もとより遠藤周作の話として。
遠藤周作あまりに熱心なので、安岡章太郎はこの話に乗った。1966年に出た安岡章太郎著『良友・悪友』に書いていますから、1960年頃の話なんでしょう。
で、新橋のとあるレストランに、四人が集まった。遠藤周作、安岡章太郎、近藤啓太郎、吉行淳之介。このレストランの指名は、○○嬢。
約束の時間がきて、○○嬢はお見えにならない。三人は、遠藤周作を見る。「さてはお主、例のホラだったか」の想いで。外はあいにくの雨。
「もう帰ろうよ」と、ひとりの誰かが言って、帰ることに。と、そこに○○嬢から店に電話があって。「クルマが故障しましたの……………」。
「遠藤、いくらなんでも凝りすぎではないか」と。
さらに、○○嬢から電話があって。「今、クルマが直りました」。「ただ今から、そちらに向かいます」。
約束の時間から待つこと二時間。○○嬢は鮮やか笑顔でお出ましになったという。これこそ、「ウソのようなホントの話」というべきでしょうか。
真っ赤が出てくる小説に、『吐蕃王妃記』があります。瀬戸内晴美が、昭和三十三年に発表した物語。

「真っ赤なブラウスに白いショートパンツのまり子が、入口から一直線に相沢夫人の方へ突進してきた。」

『吐蕃王妃記』には、こんな描写も出てきます。

「繭色の麻の背広に、黒い蝶ネクタイをしめた釜山邦雄は瀟洒な紳士ぶりだ。」

繭色のリネン。いいですね。
繭色のリネンのスーツで、真っ赤なマニキュアの女の人を探しに行きましょうか。

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone