モリスは、英國の藝術家ですよね。それもまことに多彩な藝術家であった人物。室内装飾から、造本にまで至っています。
1890年代の、「ケルムスコット・プレス」の一連の書物は、現存するものの中でいちばん美しいものでしょう。
ウイリアム・モリスが、ジェイン・バーデンと結婚するのは、1859年4月26日のこと。オックスフォードの、「セント・マイケル教会」で。この結婚式の司祭は、ディクソン。ディクソンはなぜか緊張していて。
「この二人、ウイリアムとメアリーは………………………」。
と、言ってしまった。もちろん「ジェイン」というべきだったのですが。
ウイリアムとジェインとが婚約している時。ジェインをモデルに、ウイリアムが絵を描くことに。でも、それは結局、完成しなかった。モリスはスケッチの裏にこう書いた。
「私はあなたを描くことができません。でも、愛しています」
ジェイン・モリスを流麗に描いたのが、モリスの友人、ロセッティ。
一時的、ジェインはモリスとの結婚にためらっていた。が、そのジェインの背中を押したのが、ロセッティだという。穿った見方をすれば、最高最美のモデルを、自分の近くに置いておきたかったのかも知れませんが。
モリスが出てくるミステリに、『ベルリンの葬送』があります。レン・デイトンが、1964年に発表した物語。
「玄関の上方にある欄間窓から、ウィリアム・モリス模様をとおして、色つきの日射しが石の床の上におちていた。」
また、『ベルリンの葬送』には、こんな描写も出てきます。
「清潔そのものの白いシャツを着こみ、欧州大陸の洋服屋たちがこれこそ英国風と思いこみがちな、あの高い巻き襟のついたウールとモヘアcの混紡の背広をまとっていた。」
たぶん、「ロール・カラー」の上着なのでしょう。アメリカ英語での「ショール・カラー」のこと。
モヘアは、アンゴラ山羊の繊維。おそらくは、交織地だったものと思われます。
アンゴラで仕立てたスーツで、モリスの画集を探しに行きたいものではありますが………………。