アルプスと麻

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アルプスは、ヨオロッパの山ですよね。たとえば、モンブラン。モンブランもまたアルプスのひとつ。とにかく4,000メートル級の山々が連なっているのですから、壮観そのものでしょう。
アルプス。アルプス山脈。それはあまりにも有名なので、いろんな意味にも用いられています。ひとつの例ですが、「アルプス・スタンド」。甲子園の、いちばん上の観客席のこと。うまいネイミングであります。
あの「アルプス・スタンド」は、昭和五年頃から使われているらしい。アルプス・スタンド。岡本一平が名づけ親との説があります。なるほど、そうかも知れませんね。
ヨオロッパのアルプスのひとつに、「サント・ヴィクトワール山」があります。サント・ヴィクトワール山にひとかたならぬ興味を持ったのが、画家のセザンヌ。ポオル・セザンヌ。

「このサント・ヴィクトワール山を見たまえ。なんという勢いだろう! そしてなんと太陽を渇望していることか! 」

ポオル・セザンヌは、1868年にそのように語っています。そしてセザンヌは1870年からは、実際にサント・ヴィクトワール山をキャンバスに描いてもいます。というよりも、セザンヌは、終生、サント・ヴィクトワール山を描き続けた画家でもあったのです。
セザンヌの『サント・ヴィクトワール山』は、晩年になればなるほど簡素化されて。いや、むしろ抽象画に近くなっているのです。
それはともかくセザンヌもまたアルプスに心奪われたひとりだったのでしょう。

日本の作家で、アルプスに惹かれた人物を探すなら、堀 辰雄でしょうか。

「………その林の向うに見えるアルプスの山々、さういつたものを背景にして、一篇の小説を構想したりなんかしてゐるのです。」

昭和九年に、堀 辰雄が完成させた『美しい村』の、書出し部分。
堀 辰雄は、「K村にて」と書いているのですが、これは今の軽井沢のことなのです。堀 辰雄は軽井沢を愛し、日本アルプスを愛した小説家でありました。

アルプスが出ている小説に、『帰郷者』があります。2006年に、ベルンハルト・シュリンクが発表した物語。

「山々の背後にときおりアルプスが見えた。祖父はそれぞれの頂きの形を見ては山の名を言った。」

これは物語の主人公が祖父とところに帰る場面。場所は、スイスになっています。また、『帰郷者』には、こんな場面からはじまるのです。

「明るい色の麻のジャケットに麦わら帽子、散歩用の杖。祖父には頼もしさがあふれていた。」

これはスイスのとある駅に出迎えてくれた祖父の姿として。「麻のジャケット」。いいなあ。
麻は麻でなければ絶対に描くことのできない、美しい皺を表現してくれます。
どなたか麻の皺を計算した上着を仕立てて頂けませんでしょうか。

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