フラノは、フランネルのことですよね。flannel と書いて、「フランネル」と訓みます。
フランネルは1300年頃からの英語なんだそうですから、古い。なんでもウエールズ語の「グランネン」gwlanenと関係があるらしい。グランネンは「ウールの」という意味だったそうです。
フランネルの特徴は縮絨にあります。一度織りあげてから、意図的に縮ませるのです。フランネルの表面の毳はそのようにして生まれるのであります。
もちろんコットンによるフランネルもないではありません。「フラネレット」flannelette がそれです。
日本語でいうところの「フラノ」と「ネル」の違いでしょうか。フランネルの後ろ半分を省略して、「フラノ」。フランネルの前半分を省略して、「ネル」tのなったものです。
「………それから再び部屋に帰り、そしてフラノの散歩服に着換えながら、早朝の戸外へと出て行った。」
堀 辰雄が、昭和九年に発表した『美しい村』に、そのような一節が出てきます。これは初夏の軽井澤でのこと。
そもそもフラノは応用範囲の広い生地です。が、十九世紀のヨオロッパではむしろ夏向きだと考えられていたようです。ことに淡い色調のフランネルなどは。
ですから堀 辰雄の散歩服がフラノであったのも、なんな不思議はないでしょう。
フラノが出てくる短篇に、『朝の光』があります。フランスの作家、リシャール・コラスが、2008年に発表した物語。
「男性は襞飾りのついた白いシャツ、背中を幅広のハーフベルトで締めたモスグリーンのフラノのジャケット姿でクールだった。」
これはとある演奏会の客席でのこと。
また、リシャール・コラスには、『ロデオタイム』の短篇もあります。この中に。
「男の子は、よそゆきのスナップ式の貝ボタンがついている赤いチェックのシャツを着ていた。」
「スナップ式の貝ボタン」。た文、スナップ・ファスナーのことでしょう。
1920年代にロデオ大会で事故があって、それ以来シャツの前ボタンにはスナップ・ボタンが用いられるようになっています。いざという時には、外れてくれるように。もともとは女性用の手袋のボタンを転用したものです。
それをイギリス英語では、「プレス・スタッド」press stud と呼ぶのです。
どなたかプレス・スタッドが似合うシャツを仕立てて頂けませんでしょうか。