キスとキャメル

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キスは、接吻のことですよね。接吻が出てくる小説に『舞姫』があります。明治二十三年に、森 鷗外が発表した名作。

「余は手袋をはめ、少し汚れたる外套を背に被ひて手をば通さず帽を取りてエリスに接吻して楼を下りつ。」

森 鷗外の『舞姫』には、こんな描写も出てきます。

「………丁寧にしまひ置きし「ゲエロック」といふ二列ぼたんの服を出して着せ………」

ここでの「ゲエロック」gehrockは、フロック・コートのことです。
森 鷗外は話題の豊富なお方でもありまして。ある時は森 鷗外の身長が問題になったこともあるほどです。
ところが『鷗外全集』を読んでおりますと、御本人が『洋服の寸法』という随筆を書いているのですね。
単位は、すべてインチ。

頸まわり、12。
背幅、12二分の一。
背丈、14二分の一。
胴、31。
腰、23二分の一。
袖、17。
スカツツ、38。
総丈、53二分の一。
袖口、6。

ここでの「スカツツ」は、「衣丈」のこと。フロック・コートなどの長さのことです。これはご本人の覚え書きですから、まず間違いないでしょう。

接吻が出てくる日記に、『サミュエル・ピープスの日記』があります。

「そこでわたしは奥方にご挨拶のキスをした」

1662年5月6日の『日記』に、そのように出ています。これはサー・カーテレットに招かれての夕食の際に。この少し前に。サミュエル・ピープスは国王の食事風景をも拝見しているのですが。
また、『サミュエル・ピープスの日記』には、こんな文章も出てきます。

「………乗馬用の毛織の服にらくだ織のコート(新品だ)を着たーたいへん気に入っている。」

1662年5月19日の『日記』に、そのように書いてあります。
「らくだ織」。たぶん「キャメル」camelのことでしょうね。キャメルもまた、軽くて暖かい素材です。
どなたかキャメルの外套を仕立てて頂けませんでしょうか。

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