煉獄とレザーバスケット・ボタン

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煉獄は、詩の題ですよね。
ダンテの『神曲』のひとつに、『煉獄』が。『神曲』は、長篇詩で。
『地獄篇』、『煉獄篇』、『天国篇』の、三つの総題として、『神曲』なんですね。
ダンテ・アリギエーリは、イタリアのフィレンツェに生まれています。1265年に。今からざっと、千年前ということになるのでしょうか。生年月日は、定かではありません。それくらい昔の詩人なのでしょう。
ダンテ・アリギエーリが、『神曲』を書きはじめたのは、1307年のことだったと、考えられています。そして『神曲』が完成したのは、1321年のこと。
ダンテは、1321年6月14日。五十六歳で、世を去っています。ということは、ほぼ半生を費やして、「神曲』に取り組んでいたわけでしょう。
ダンテにとっての『神曲』は、そもそも九歳の時に、はじまっているようです。その時、ちょうど同い年の、ベアトリーチェ・ポルティナーリに出会って、戀心を。そして九年後に、再会。つまり、二人が十八歳の時であります。
この時、ちょっとした誤解から、失戀。このベアトリーチェとのことが、ひとつの契機になっているのですね。
『神曲』は、ダンテが地獄、煉獄、天国を巡る物語。『天国篇』でのダンテは、ベアトリーチェに会って、天国を案内される構成になっています。
『神曲』は、ダンテの失戀から生まれた長篇詩とも言えなくもないのです。
ダンテの『神曲』が出てくるミステリに、『縞模様の霊柩車』があります。ロス・マクドナルドが、1962年に発表した物語。

「わたしは口火を切るために言った。「なべて此の門を入る者、望みを捨てよ」
女はちょっと赫くなった。…………………。」

この、『神曲』の有名な一行を引用したのが、私立探偵の、リュウ・アーチャーという設定になったいます。依頼人の、イゾベル・ブラックウェルに対して。イゾベルはすぐに気づいて。

「ダンテもね。」

と反応するのですが。
『縞模様の霊柩車』には、こんな描写も。

「茶色のハリス・ツイードのコートで、茶色のレザーのボタンがついています。」

これもまた、リュウ・アーチャーの科白。
ここからは、私の勝手な想像ですが。トゥイードのコートのボタンは、レザーバスケットではないでしょうか。細い、革紐で編んだボタン。
郊外で着るトゥイードのコートには、ふさわしいものです。
なにかレザーバスケット・ボタンのついた服で、『神曲』の本を探しに行くとしましょうか。

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