トーストとトレンチ

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トーストは、パンのひとつですよね。
食パンを食べやすい厚さに切ると、トーストになるわけであります。

「………例の通り焼麺麭と牛乳と半熟の鶏卵を食べて……………………。」

夏目漱石が、大正四年に発表した『硝子戸の中』に、そのように出ています。
漱石は、「焼麺麭」の脇に「トースト」のルビをふってあるのですが。大正時代のはじめ、
夏目漱石の朝食はトースト中心だったのでしょう。
トースト t o ast にはもうひとつの意味があって、「乾杯」。なにかの祝杯の時に、
「トースト!」というではありませんか。
祝杯としての「トースト」は、十八世紀、ジョージ二世の時代にはじまっているんだとか。
これは『タトラー』紙第二十四号に出てくる話なのですが。
その時代、すこぶるつきの麗人がいまして。ある男、この美女にぞっこん。それで、この佳人を讃える方法を思いついた。美形が入った風呂の湯をコップに入れて、「トースト!」。
ここから「トースト」が祝杯の意味になったとの説があります。
トーストが出てくるミステリに、『死刑台のエレベーター』があります。1956年に、
ノエル・カレフが発表した物語。
『死刑台のエレベーター』は、ルイ・マル監督の映画でもよく知られていますよね。その、
原作。この中に。

「まったく素晴らしい発明だ、トーストってやつは。古くなったパンがみんなさばけちまうんだからな……………………。」

これは、「シャルル」という男の科白として。シャルル自身は、トーストにバターを塗り、紅茶を飲んでいるのですが。
『死刑台のエレベーター』には、何度も繰り返して、「レインコート」が出てきます。でも、なぜかトレンチ・コートの記述は見当たりません。
トレンチ・コートが出てくるミステリに、『ハートの刺青』があります。1967年に、
エド・マクベインが発表した小説。

「彼は濃いブルーのトレンチコートを着、雨にぬれて乱れた髪が、子供っぽくひとすじ額に垂れかかっている。」

これは、「プリシラ」の部屋を訪ねた「男」の着こなし。1960年代のアメリカでは、「濃いブルーのトレンチコート」が珍しくはなかったのでしょうか。

「………男子が快晴でも、トレンチコオトを持って行くのはランデブウの心得です……………………。」

昭和八年の『モダン學十ニ講』には、そのように出てきます。ここでの「トレンチコオト」は、比較的はやい一例かも知れませんね。
どなたかダーク・ブルーの、本格的なトレンチ・コートを仕立てて頂けませんでしょうか。

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