ベンチとヘヴィ・シルク

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ベンチは、長椅子のことですよね。ソファーも長椅子ですが。ソファーがどちらかといえば、室内用の印象があるのに対して、ベンチは野外にふさわしい感じがあります。

🎶 もしもし
  ベンチでささやく お二人さん………

昭和三十一年の流行歌『若いお巡りさん』に、そんな歌詞があったように思います。歌手は、曽根史郎だったと記憶しているのですが。

「『うごかすべからず、ねるべからず』の共同椅子の裏淋しげに横たはつて、誰が為めにか指す図書閲覧室へのペンキ塗りの………」

明治三十四年に、山岸荷葉が発表した小説『紺暖簾』に、そのような一節が出てきます。
山岸荷葉は、「共同椅子」と書いて「ベンチ」のルビを添えています。明治期の「ベンチ」としては、かなりはやい例でしょう。
同じ『紺暖簾』の中に、こんな文章もあります。

「………サイホンにワツプルかなんかで………」

山岸荷葉は、「ワツプル」と書いています。もちろん今のワッフルの明治語なんですね。

ひとり立てば、また、一人立つ、
一人来れば、また、ひとりくる。
 ベンチの秋かな

明治四十五年に、土岐哀果が詠んだ『黄昏に』という短歌に、そのような一句があります。この『黄昏に』の句集は、石川啄木に捧げられているのですが。

ベンチが出てくる小説に、『田舎の婚礼準備』があります。カフカが、1907年に書いたと考えられている短編なのですが。

「………あかるい茶色の木製ベンチの、一番端にあいていた席へ座ってからも………」

これは列車で、田舎に向かっている「ラバーン」の様子として。
ラバーンは物語の主人公。たぶんカフカ自身が投影されている人物だろうと、思われます。
また、『田舎の婚礼準備』には、こんな文章も出てきます。

「ムーア風模様を浮きあがらせた、厚手の生地のネクタイだが、その赤色はとっくに褪せていたのだ。」

これも「エドゥアルト・ラバーン」のネクタイとして。
ここでの「ムーア風模様」は、今いうペイズリーのことではないでしょうか。
「厚手の生地」。たぶん、ヘヴィ・シルクなのでしょう。だいたい絹の場合、ヘヴィ・シルクは上等品なのです。
作家、フランツ・カフカのお父さんは、ヘルマン・カフカ。ヘルマン・カフカは、高級洋品店の経営者でしたから、カフカが極上ネクタイを結んでいた可能性は少なくないでしょう。
どなたかヘヴィ・シルクのネクタイを作って頂けませんでしょうか。

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